2026.9.25
曖昧にして確固たる存在感を放つ「おふくろの味」…「胃袋を摑む」料理とは?
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なんだか散々、肉じゃがの悪口ばかりを重ねてしまいました。しかし、フォローするわけでもありませんが、肉じゃがとは極めて優れた料理です。身近な材料だけで安価に作れますし、糖質云々はともかく必要な栄養素がバランス良く摂取できます。醤油がベースの甘めの味付けは日本人の嗜好のど真ん中でもあるはずだし、技術的に案外高度ということは、逆に言えば、肉じゃがをマスターすることで煮物の基礎技術が身につくということも意味します。
阿古真理著『日本の肉じゃが 世界の肉じゃが』は、そんな肉じゃががどのように日本の家庭料理として定着し愛されてきたかを、これまで料理本等に掲載されてきたレシピを軸にして紐解いていく本です。同書によると、肉じゃがの歴史はせいぜい100年程度で、家庭料理として定着したのは戦後からのようです。そしてそのあたりまで遡ると、肉じゃがという料理の素晴らしさは、より鮮明に浮かび上がってきます。
現代の我々は、肉じゃがではご飯が進まない、なんてことを平気で言いますが、戦前の日本人は、芋の煮っ転がし程度のおかずで山盛りのご飯をモリモリと平らげていました。戦局が悪化すると、それすらままならなくなりました。そこからの復興期に家庭でも作られるようになった肉じゃがは、それが日常的に食卓に上るというだけでありがたいものだったはずです。やはり同時期にご馳走の頂点として君臨し始めたすき焼きがハレの日の象徴とするならば、ある意味同系統の料理とも言える肉じゃがは、ケのご馳走の代表格とも言えます。
さて、本稿序盤で僕自身は肉じゃがが苦手だったと書きましたが、今は決してそうではありません。ここに至るまでには、思い返すと二度のきっかけがあったように思います。最初のきっかけは、プロの板前さんが作る肉じゃがでした。それは甘辛い味付けでこってり煮詰めるものではなく、たっぷりのダシで薄味に煮含めるものでした。すき焼き的と言うよりはちょっとおでんや炊き合わせに近いものでもあり、これならば「酒に合わない」なんて誰にも言わせないでしょう。またこのタイプの肉じゃがは、現代の嗜好にも合いやすい気がします。
もうひとつがインド料理の「アルゴビ」です。直訳すると「ジャガイモカリフラワー」で、「肉じゃが」が素材を二つ並べただけのシンプルすぎるネーミングであることと、奇妙な共通性があります。これは肉を使わないベジ料理ですが、インドのベジ料理ではカリフラワーを揚げて油を吸わせたものが、あたかも肉のようにも用いられます。
とは言えスパイス料理であるアルゴビと和食の肉じゃがでは、あまりにも味付けの隔たりが大きいではないか、と思われるかもしれません。しかし僕にとってそれは、醤油が塩+スパイスに置き換わったにすぎません。同じ構造の料理であり、実際問題、アルゴビをおかずにモリモリと米を喰らうおいしさに開眼した僕は、肉じゃがにもその感覚をスライドさせることに成功したのです。じゃがいもそのものの「おかず」としてのおいしさに改めて開眼したとも言えます。
肉じゃがが家庭料理の象徴だった時代は、既に過去のものです。これからかつてのように定番的な人気を取り戻すことはないかもしれません。かつて家族みんなが大好きな「日常のご馳走」だった肉じゃがは、確かに今の感覚では、主菜としては地味、ご飯のお供としては力不足、お酒のツマミとしても少々野暮ったく……という、中途半端な存在なのかもしれません。しかし中途半端だからこそ、逆にオールマイティに活躍するポテンシャルもあるのではないかという気もします。具材や味付けのバランスを少し変えるだけでも、肉じゃがはまだまだ大化けする可能性がある料理なのではないかと思うのです。
個人的には、肉と玉ねぎを大幅に増量し、その代わりじゃがいもには脇役に回ってもらい、甘辛こってり味というよりダシを効かせた薄味に持っていけば、ちょっと現代的な美味しさにアップデートできるのではないかと思っています。よろしければお試しください。
次回は10/9(金)公開予定です。
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