よみタイ

ホットプレートならではの制約が、家庭での焼肉に自由と進化をもたらした

 せっかくなので、ある方の知見をここでご紹介しておきましょう。これは某SNSで、料理に関してはアマチュアながら玄人はだしの知識と技術で多くのファンを持つ、O氏のお家焼肉指南です。
 使う肉は牛肉ではなく豚肉です。つまり普段から気楽に取りかかれる日常焼肉と言えます。まずはその豚肉をホットプレートでじっくり焼きます。するとそこからはジクジク脂が染み出してきます。そうしたらその脂を吸わせるように野菜を焼いていきます。この焼肉はむしろその野菜が主役でもあるので、豚脂を吸い込んでおいしくなりそうな野菜を選び、丁寧に焼いていくわけですね。
 なんだそんなことか、と思うかもしれません。そんなことならいつも自然にやってるよ、と。ですがこういうことを言語化して共有することこそがSNSの醍醐味というものだと思います。ポイントは、脂が網の下に落ちないというホットプレートの短所を、長所にひっくり返したという点にあります。だからこのやり方は、焼肉屋さんでは絶対に不可能です。さらにその逆転した長所の価値を最大化するために、あえて野菜のほうを主役と位置付けます。肉と野菜のどっちがおいしいか、という話ではないのです。野菜がヒーローとなる物語を設定するんですね。あくまでその世界観に沿ってホットプレート豚焼肉を楽しむ。こういうことこそが教養というものなのではありますまいか!

イラスト:森優
イラスト:森優

 最後に、O氏の託宣よりはずいぶん即物的で恐縮なのですが、僕からもひとつお伝えしておきたいことがあります。それは、お家焼肉で焼肉用の牛肉を使わない、という裏技です。では何を使うか。「切り落とし」です。つまり焼肉用ほどは厚くなく、厚さで言うとすき焼き用と同じくらいで不定形の肉。同ランクの肉質なら焼肉用より安いというコスパの良さも魅力ですが、一番の良さは、ホットプレートで焼くのにとても向いているということです。どう焼いても柔らかいですし、うまく焼くと、さらにしっとりジューシーに仕上げることも可能です。欠点は「イマイチ焼肉っぽくない」という点ですが、そこは「これは焼肉というよりは焼きしゃぶである」という物語に落とし込むことで解決です。
 僕はこのノウハウを、かつて両親から引き継ぎました。彼らは「焼肉用の肉を家で焼いてもおいしくない」と断言していました。それはそれで極端すぎる気もするので、皆さんはまずは焼肉用と切り落とし、半分ずつ用意してお試しください。
 この焼きしゃぶスタイル焼肉には、できれば甘さ控えめのタレがおすすめです。なのであえておろしポン酢で、なんてのもアリなのですが、やっぱりそこは焼肉のたれっぽくなきゃ、という方におすすめなのが、通称「ベルのたれ」と呼ばれる商品です。これは北海道のローカル食品メーカー・ベル食品の商品で、本来はジンギスカン用のタレなのですが、意外と全国にファンがいるようで、比較的入手しやすいはずです。市販の焼肉のタレはちょっと甘すぎて……と内心思っている方にもおすすめの、シンプルでキレの良い味わいです。

次回は7/10(金)公開予定です。

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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