よみタイ

昭和の家庭の夕食に、頻繁に登場していた謎のオムレツを知りませんか?

 このオムレツ、出自はこうやってぼんやりと見えてきますが、むしろ不可解なのは、なぜ消えていったのかです。ちなみに昭和から平成初期の料理本のオムレツは、挽き肉のみならず、ソーセージ、野菜、海老など、具を中に巻き込んだものが多いのですが、それらもまとめて衰退していきました。
 衰退の原因として、見た目が地味な割に、作ると案外手間がかかるということはあるかもしれません。特にプレーンオムレツが朝食の定番として定着して以降は、せっかくの晩ごはんがまるで朝食のようになってしまうじゃないか、というガッカリ感も生まれたことでしょう。オムレツに限らず卵がすっかり日常的な食材となり、誰もが卵大好きなのにもかかわらずありがたみがすっかり失せてしまったということもありそうです。脇役としての卵は嬉しいけど、それが主役になるのは納得がいかない、みたいな感覚は何となくわかります。
 しかしそれにしても、そんな理由でここまで衰退するものでしょうか。このオムレツが話題に上ると、誰もが「あれはおいしいものだった」と口を揃えて言います。しかしその割には「そう言えば長いこと食べてないなあ」と遠い目をして、その話は終わりです。
 作ろうと思えば比較的簡単に作れるはずです。同じ挽き肉料理で比較するならば、ハンバーグよりずっと楽に手早く作れるはず。確かに懐かしがっているのは昭和生まれの人々ばかりではありますが、決して古くさい味というわけでもなく、現代でも老若男女分け隔てなくウケそうな味です。そしてなんと言ってもこれは「ご飯によく合う」という、家庭料理としては極めて重要な条件を満たしています。これはオムレツ系の料理としては例外的とも言えます。

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 そろそろ「なぜ衰退したのか」という結論に向かいたいところなのですが、残念ながらその本質的な理由はさっぱりわからない、というのが正直なところです。
 その代わり僕はこれを書いている途中、矢も盾もたまらず、久しぶりに作ってみました。ソースはケチャップだけというのもなんなので、ケチャップに色々混ぜてカクテルソース的なものにしました。それにしても、玉ねぎを刻むところから始めて、全工程でものの10分少々といったところでしょうか。そしてやっぱりおいしい。お酒もご飯も進むし、材料代も安い。
 ただ強いて言うならば、卵を半熟に焼いてタネを包んでくるりんぱと巻く、そこに技術的なハードルを感じる人はいるかもしれない、とは思いました。とは言え、プレーンオムレツやだし巻きに比べたらむしろ簡単だし、何なら多少失敗しても味にはほぼ影響しないわけです。
 もしかしたら現代人は、その多少の失敗すら許せないほど完璧主義になってしまったのか、なんてことも少し思いました。プロのように完璧な紡錘形に巻き上げ、SNSに誇らしげにアップできるレベルでないと自分が許せない、みたいな。
 ……いや、今更そんな詮索も不毛でしょう。そんなことより、ひとりでも多くの人がこの料理を思い出す、それだけでいいのかもしれません。そしてこの料理を知らない世代の人々にも食べてもらう。食べればそのおいしさは、きっとわかってもらえるはずです。
 絶滅危惧種の野生生物も、保護活動によって近年個体数を回復している例は、決して少なくありません。家庭料理にも多様性が必要なのかどうかはともかく、ことこの料理に関しては、このまま消えていくのはあまりにももったいないと感じます。

次回は6/26(金)公開予定です。

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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