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ハンバーグレシピの変遷から考える、家庭料理と「良妻賢母」思想

あらゆる選択肢のなかから、食の楽しみを自由に得られるようになった現代日本で、
本当の「おいしさ」はどこにあるのか——?
『異国の味』『東西の味』に続く、稲田俊輔による「味3部作」連載、第3弾!

初回は、いつの時代も家庭の味の定番中の定番、ハンバーグを取り上げます。

ハンバーグ  〜面倒だけど作らずにはいられない家庭料理の頂点〜

 ハンバーグ、それは今や家庭料理の頂点と言ってもいい存在なのではないかと思います。肉じゃがはよく家庭料理の代表のように語られますが、人気の上ではハンバーグの圧勝でしょう。カレーライスならまだハンバーグに対抗できそうですが、多様化と共に求心力を失いつつあるカレーライスとは違い、ハンバーグは典型的なスタイルや理想的なイデアが今もおおむね共有されています。
 そしてハンバーグは、定番的に作られる現在の家庭料理の中で、最も手の込んだ料理のひとつとも言えるのではないでしょうか。同系統の挽き肉料理で、余分にもう一手間かかる「ロールキャベツ」を作る家庭は、ハンバーグを作る家庭よりぐっと少なくなることでしょう。もはや定番とは言えません。ハンバーグの数倍手間暇がかかり、その割にご馳走感の薄い「コロッケ」は、もはや作るものではなく買うものです。コロッケを自家製するのは、おばあちゃんの味を再現したい、とか、手間も含めて料理が好きで好きでたまらない、みたいな、言うなれば生活というより趣味の領域です。
 ちなみに僕は、じゃがいもを茹でて潰し、挽き肉と玉ねぎを炒めて混ぜ込んで味付け、という「タネ」の部分までは作ることがありますが、確実にそこで力尽きます。なのでそれをまとめて耐熱皿に敷き詰め、パン粉を振りかけて焼きます。大丈夫、食べればコロッケだから。
 しかし昭和の時代においては、ロールキャベツもコロッケも、家庭料理の定番でした。昭和のレシピ本は、特に古いものになるほど、ハンバーグの掲載はなくてもロールキャベツはある、というケースが多くなるようです。当時を生きてきた方は、あの時代のほうが皆、料理に多くの手間をかけていたという記憶があるのではないでしょうか。
 料理に手間をかけていた最大の理由は、当時の「主婦」が専業主婦中心だったからでしょう。しかしそれ自体は単に、物理的制約が少ないということしか意味しません。手間を惜しまないことのモチベーションは、当時の「良妻賢母思想」だったのではないかと思います。愛する夫や子どもたちのために、プロ顔負けで、栄養豊富で、なおかつ経済的、、、な料理を作ることこそが美徳……いやむしろそうせねばならない、みたいな圧です。現代においては、その圧は随分弱まってはいます。しかしそこかしこに亡霊のように生き残ってもいます。

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 ハンバーグに話を戻しましょう。
 昔に比べれば料理に手間をかけなくなった現代でも、ハンバーグはそこそこ面倒なのにもかかわらず、家庭料理としてまだまだ不動の人気です。あらかじめ玉ねぎをじっくり炒めて冷ましておく、とか、パン粉を牛乳に浸しておく、みたいな事前準備もさることながら、面倒のクライマックスは、それらを混ぜ込んだ肉を捏ねる部分です。
「十分に粘りが出て白っぽくなるまでしっかり捏ねろ」と言われたかと思うと、「手の熱が伝わらないように手早く捏ねろ」とも言われ、時には「そのために手を氷水で冷やせ」とまで言われることすらあります。なんだか「スポ根」みたいです。どうもそこには、科学的根拠の薄い精神論も幾許か入り込んでいるような気もするのです。そういう意味では、そもそも良妻賢母思想自体が、どこかスポ根的で精神論的なものでもあったのかもしれません。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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