2026.5.22
ラー油を自作するタイプの男性たちが牽引した「家で本格中華を食べたい」というニーズ
さて、家庭料理の世界においては、時に一部の男性の奇妙な行動が、その発展に影響を及ぼすことがあります。古くからの定番である「中高年男性が突然始める蕎麦打ち」こそ家庭料理からは切り離された存在ではありますが、バブル期以降に急増した、食材もレシピも本国イタリアのそれを忠実に再現したがる「パスタ男」や、最近で言うとカレーを市販のルーやカレー粉を使わず単体スパイスを買い揃えて作り始める「スパイスカレー男」は、日本の家庭料理としてのパスタやカレーにも少なからず何らかの影響を与えました。彼らはあたかもガンプラを組み立てて塗装してジオラマに配置する少年のように、目をキラキラと輝かせながらホビーとしての料理に没頭します。そして確実にそんな中のひとつとして位置づけられるのが「麻婆男」です。
麻婆男はパスタ男にもどこか似ています。「豆板醤は『P県豆板醤』でなければならない」「隠し味は豆豉」「豆腐は下茹で必須」「化粧油が仕上がりを決める」「ラー油は自家製が望ましい」「花椒が無ければ麻婆豆腐を作ってはならない」……そんなこだわりの麻婆豆腐が、半ば道楽として、しかし当人たちの自意識としては愛する家族のために、一部の家庭で作られるようになりました。
そのこと自体は、あくまで局所的なムーブメントです。しかし2025年、「Cook Do・極(プレミアム)シリーズ」として、「極(プレミアム)麻辣麻婆豆腐用」が満を持してドロップされました。これは言うなれば麻婆男たちへの挑戦状でもあり、彼らが作る本格的な麻婆豆腐と遜色のない……ということを彼らが認めるかどうかはともかくとして、タイプとしてはよく似た方向性のものが簡単に作れます。
もちろんそれは、麻婆男とは関係なく、より本格的な味わいを求める一般グルメ層に強くアピールするでしょうし、原材料欄などを仔細に眺めれば、カタカナで書かれるような添加物的なものに忌避感を感じる「意識の高い層」にも安心感を与えられるよう配慮されているようにも見えます。この種の商品がこのまま定着してジャンルの一角となるかどうかは現時点ではまだ何とも言えませんが、とりあえずなかなかのヒット商品にはなったようです。
麻婆豆腐の素としては、この極シリーズの真逆とも言えるものとして、昔ながらの「丸美屋・麻婆豆腐の素」のような定番も根強い人気です。こちらは挽き肉も最初から製品に入っているので「家庭の挽き肉料理」の範疇に入るかはともかく、実は家庭用麻婆豆腐としてのシェアは約5割のモンスター商品です。
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とにかく、日本人が麻婆豆腐を愛してやまないことは間違いありません。簡単・安い・ご飯が進む、という、言うなれば「家庭料理の三要件」みたいなものを全て高いレベルで満たしているのが(麻婆豆腐の素で作る)麻婆豆腐と言えそうです。
そして麻婆豆腐に限らず、日本人の挽き肉料理に対する愛着には、少し特別なものがあるような気がします。イタリアでは主流というほどでもないボロネーゼなどの挽き肉のパスタは、日本では昔も今もミートソースとして大定番ですし、かつてはドライカレー、最近はキーマカレーと呼ばれることの多い挽き肉のカレーも、インドでは実はさほどポピュラーではないのです。他にも、餃子、ミートボール、つくね、鶏そぼろ、などなど、家庭料理として愛されるものは枚挙にいとまがありません。個人的にはタコライスなんてものも、もっと家庭で作られるべきなのではないかと思っています。
なので次回はあえて、令和の今、なぜか消えゆくとある挽き肉料理について、一節を割いてみたいと思います。
次回は6/12(金)公開予定です。
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