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アン・ハサウェイが演じ分けた「働く女性像」――『マイ・インターン』から学ぶ、弱点を晒して信頼関係を築く方法

映画を観た感想を、どう表現すればいいのか迷ってしまうことはありませんか?
ストーリーを追うだけでなく、その細部に注目すると、意外な仕掛けやメッセージが読み取れたり、作品にこめられたメッセージを受け取ることもできるのです。
せっかく観るなら、おもしろかった!のその先へ――
『仕事と人生に効く 教養としての映画』の著者・映画研究者の伊藤弘了さんによる、映画の見方がわかる連載エッセイ。

今回は、前回の『プラダを着た悪魔』と同じく、アン・ハサウェイが主演した『マイ・インターン』を取り上げ、2作を比較しながら「働く女性像」の変化を考察します。

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イラスト:高橋将貴
イラスト:高橋将貴

仕事の顔とプライベートの顔

 多かれ少なかれ、誰しも仕事とプライベートでは違う顔を使い分けているものである。プライベートの顔には、その人の“素”の部分が直接的にあらわれやすい。多くの人が、職場では「素顔」(本音や感情の起伏など)を隠すべきだと本能的に感じている。素顔は容易たやすく弱みに転じる。仕事用に取り繕った姿を攻撃されても、所詮それは仮初かりそめの姿であると割り切れるが、素の自分を責められたら逃げ場がなくなってしまうからである。

 バリバリの仕事人間であるほど、プライベートの弱みは見せたがらないものかもしれない。『プラダを着た悪魔』(デイビッド・フランケル監督、2006年)の鬼編集長ミランダ(メリル・ストリープ)もそのような人物として造形されていた。

 仕事ぶりを認められつつあった第2アシスタントのアンドレア(アン・ハサウェイ)は、あるときついにミランダの自宅まで『ランウェイ』の見本誌を届ける重要な役目を任される。ところが、第1アシスタントのエミリー(エミリー・ブラント)から「誰とも口をきかないで」、「誰も見てはダメ」、「あなたは“透明人間”」とキツく言い含められていたにもかかわらず、アンドレアはその禁を犯してしまう。ミランダの双子の娘と言葉を交わし、言われるがままに二階へと上がると、そこでミランダと彼女の夫(再婚相手)が口論している現場を目撃する。そのときアンドレアを捉えたミランダの目は、驚愕のあまり大きく見開かれている【図1】。職場では決して見られない姿である。

【図1】
【図1】

 翌日のミランダは不機嫌さを隠そうともしない。出勤してきたアンドレアを即座に呼びつけると、双子の娘たちのために、「ハリー・ポッター」シリーズの発売前の最新の原稿を入手するように命じる。はっきり言って、無理難題もいいところである。これは自分のプライバシーを覗き見されたことへのミランダの報復措置にほかならない。

鬼編集長の目にも涙

 映画の終盤には、再びミランダが弱みを見せるシーンが置かれている。ミランダとアンドレアは、パリ・コレクションに参加するためにパリに来ている。ホテルの客室を訪ねてきたアンドレアを、ミランダはノーメイク(すなわち「素顔」)で迎える。この事態に驚いたアンドレアは思わず声を上げてしまう。翌日の昼食会の打ち合わせを進めるなかで、ミランダの夫が出席をキャンセルしたこと、彼女と夫が離婚寸前であることが明らかとなる。彼女にとっては二度目の離婚である。ミランダはあくまで冗談めかして「仕事に取り憑かれた猛女」、「雪の女王 また夫を追い出す」などとゴシップ欄の見出しを予想するが、娘たちの境遇に言及する際には、目を潤ませ、言葉を詰まらせてしまう【図2】。

【図2】
【図2】

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伊藤弘了

いとう・ひろのり 映画研究者=批評家。熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授。1988年、愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。

Twitter @hitoh21

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