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“一重スターの宝庫” 韓国芸能界と日本の二重信仰 第4回 一重まぶたの扱い方

 一方の日本では、いまだ二重信仰が強いのでした。江口のりこのように、一重まぶたで主役級という女性俳優も登場してきたものの、彼女が演じる役もどこか、「個性派」の枠の中だったりもする。
 最近私がドラッグストアをぶらついていて驚いたのは、「いまだにアイプチが売られている」という事実でした。アイプチとは、一重まぶたや奥二重の人がまぶたに塗布して、奥に折り込むようにして二重を作るための、糊。化粧品と言うよりは文房具に近い商品ですが、売られているのは化粧品コーナーです。
 私の学生時代から、アイプチは存在していました。薄ぼんやりとした目の私ももちろんぱっちり二重の目に憧れていたのであり、アイプチを使用したことがあったもの。
 もともと細い目の人がアイプチを使用したとて、目が少女漫画のように大きくなるわけではありません。他人からしたらほとんど誤差の範囲内での拡大、と言っていいでしょう。
 しかしアイプチを使用している本人としては、「これで人生が変わるのでは?」という気がしたものでした。ほんの少々にせよまぶたというとばりが開いたことによって、人生もまた明るく開けるのではないか、と思ったのです。
 その感覚は、根深い一重差別が私にも染み込んでいたからのものでした。当時から、テレビに出ている女性は二重の人ばかり。チビッ子の頃から、
「まぁ可愛い!」
 と言われるのも、ぱっちり目の子だったのであり、「いい思いをするのは、目の大きな子」という感覚が叩き込まれていました。
 一重まぶたの男性のことは格好いいと思っているのに、女性は目がぱっちりしている方が可愛いと思ってしまうし、自分もまた、目をぱっちりさせたい。……この感覚は、二重が引き寄せる「得」は女性の方が多いことを示します。だからこそ二重を希求する心は、明るさや可愛らしさが求められがちな女性の方が、圧倒的に強い。
 それにしても糊でまぶたをくっつけて二重を作るだなんて、昭和の人は健気だったものよ。……と思っていたところに、令和の今もアイプチが売られているという事実を発見し、私は驚いたのです。
「いまだに糊なの?」
 と。そして、
「いまだに若い女の子は、目を大きくしたがってるの?」
 と。
 容姿に対する感覚は、昭和の時代と比べて、かなり変わっています。多様性の尊重という意識が強くなってきたせいで、容姿についても画一的な美を目指すのではなく、それぞれの個性を大切に、という気運が高まったのです。
 しかしそれでも、女性アナウンサーや女性芸能人は、やはり目が二重で痩せている人達ばかり。多様性の波は、テレビの世界にはいまだに届いていません。
 ドラッグストアのアイプチ売り場には、糊ばかりではなく、テープのようなもので二重を作るという商品も売られていました。が、「二重を一重にする」という化粧品は、見当たりません。同様に、写真を撮ると自動的に目が大きく写るカメラアプリは人気でも、「目を小さくする」という機能は、搭載されていない模様。
 日本において目は、特に女性であれば、誰もが「大きくしたい」と思って当然と思われているのでした。切れ長の一重まぶたを気に入っている人もいるだろうに、アプリで写真を撮ると強制的に、ぱっちり目にされてしまうのです。

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酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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