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元気すぎる雑草の生長と謎の穴

27年ぶりの引っ越しにともなう不要品整理。溜まりに溜まったものを処分し厳選するなかで、残したもの、そばに置いておきたいものとは。そして、来るべき七十代へ向けて、すること、しないこととは。
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。

版画/岩渕俊彦

第7回 元気すぎる雑草の生長と謎の穴

版画:岩渕俊彦
版画:岩渕俊彦

 前回の、やたらと生長が早い謎の植物であるが、花が咲いたことで、『アカメガシワ』と確定した。樹皮も葉も茎も生薬として使われ、葉は神仏へのお供えをのせたり、かしわ餅の柏の代わりに餅を包んだりもしていたそうである。
「たしかにこの大きさなら、餅を包むのも、皿として使うこともできただろうな」
 と感心しつつ、ずんずんと伸び枝を広げているアカメガシワを眺めている。
 ひとまず謎の植物の名前が判明したのはよかったが、もともと庭に植えてある、マンサクの木の下側の枝が、地面に付きそうになるくらいまで下がってきていた。そんなふうになるはずはないのにと、よく見てみたら、そばに本体の木の葉とは形状が違う、ひとまわり小さい葉が密集しているのがわかった。もしやこれも雑草ではと、その植物の根元をたどってみたら、防犯用の砂利の間から生えてきていたものだった。
 前に草取りをしたときに、三十センチくらいの太い茎の草を抜こうとしたら、あまりに根が深くて抜けなかった。そこで根元から鋏で切ったのだけれど、その雑草があっという間にここまで伸びてきていた。これがいやらしいくらいに、マンサクの木の枝にからみつき、四方八方に細い蔓を伸ばして、上からのしかかるような状態になっていたのだった。小さな薄ピンクや緑色の丸が集まった、花らしきものが咲いていて、子どもの頃によく野原で見かけたのを思い出した。
「何なんだ、この雑草は」
 腹を立てながら、これもインターネットで調べてみたら、『ヤブガラシ』だった。「カラシ」といっても食用のからし菜とは関係がなく、やぶを覆い尽くして枯らしてしまうから、この名前がついたという。同種と他種の植物が生えていた場合、同種には巻きつかず、他種のほうに巻きつく。そして同種にからみついてしまったら、蔓を巻き戻すのだそうだ。
「あっ、違った」
 と思うのだろうか。ヤブガラシの生長のすごさと、同種と他種を認知できる能力には驚いたが、このまま放置して大家さんが植えた木を枯らすわけにはいかないのである。
 敵の名前、性質等がわかったところで、マンサクの木にからみついているものを取らなければと、蔓をたどっていった。テラスに面した大きな戸にはシャッター設備があり、その枠の下の隅に、八ミリ×二十五ミリほどの四角い穴が空いている。何とそこにまで細い蔓がからみついて、自分をしっかりと建物に固定しているではないか。
 この頭のよさというか、ずる賢さというか、世渡り上手というか、目があるわけでもないのに、こんな小さい穴をどうやって見つけたのか。そしてどうしてここに蔓を伸ばしてからみつくことができたのか。敵ながらあっぱれとは思ったが、こちらとしては迷惑なので、マンサクの木の下側の枝にからみついている、たくさんの蔓を鋏で切って枝からはがし巻き取った。根はどうやっても抜けないので、茎を根元から切った。またすぐににょろにょろと蔓を伸ばしながら生長してくるだろう。

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新刊紹介

群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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