よみタイ

うまいか、マズいかは問題じゃない!? 「インド料理マニア」たちの深層心理

日本ほど「外国料理」をありがたがる国はない……!
「現地風の店」が出店すると、なぜこれほど日本人は喜ぶのか。
日本人が「異国の味」に求めているものはなんなのか。
博覧強記の料理人が、日本人の「舌」を形成する食文化に迫るエッセイ。

前回は、稲田さんが初めて出会った「ガチ系インドカレー」の衝撃が綴られました。
インド料理編第3回目となる今回は、「インド料理マニア」と呼ばれる人たちの深層心理について。

インド料理編③ インド・ネパール系に対する複雑な想いと「原理主義」

 前回までをお読みいただいた方には、とっくにバレバレだと思いますが、僕は概論で分類した③インド・ネパール系に対して、あまり良い感情は持っていません。もちろんその功績や存在意義は充分すぎるほど理解しています。ただそれは、ノット・フォー・ミー、自分にとっては必要性の薄いものであるし、正直さほど特別な魅力も感じません。
 このシリーズを書くにあたって、僕はその感情をひた隠しにすべきかと随分迷いました。あくまで客観的に、その成り立ち、仕組み、功績、おいしさ、楽しみ方、そういったものをフラットな立場で紹介すべきではないか、と。しかし最終的にそれは無理だと結論しました。なぜなら成り立ちを解説するにしても、その良さを語るにしても、それはその他のカテゴリー、つまり僕が素直に愛するタイプのそれとの比較、相対化無しには成立しないと気付いたからです。
 もちろん心苦しくもあります。なぜなら、インド・ネパール系を愛する人々はたくさんいるからです。たくさんどころか、日本においては完全に主流です。地方では特にインド・ネパール系しか選択肢のない地域がほとんどですし、他に選択肢がある都会でも、そちらを選ぶ人の方が大多数なわけです。自分が好んでいるものを貶められて気分のいい人なんていません。
 もちろん僕とて、貶める意図はさらさらありません。しかし良くも悪くも僕はそれ以外のカテゴリーが好きすぎる、、、、、のです。前回も、「デリーのようなカレー専門店」や「元バックパッカーによるガチ系」を賞賛するために、インド・ネパール店を当て馬のように扱ってしまいました。
 しかし誤解していただきたくはないのですが、決して嫌いなわけではないのです。もし僕がインド・ネパール店しか無いエリアに住んでいて、それ以外のインド料理を知らなければ、何の不満も疑問も抱かず、むしろ足繁く通うと思います。前回はタイ料理との比較においてもまたインド・ネパール店を貶めたかのような形になってしまいましたが、それもまた、あくまでタイ料理知り初めし熱狂時代であった当時の感覚です。タイ料理にもすっかり日常的に慣れ親しんだ今となっては、少なくとも僕にとって両者はほぼ等価値。もし近所にインド・ネパール店とタイ料理店が一軒ずつあったら、おそらく交互に通うことになるでしょう。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など。近著に『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)。

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