2023.9.8
うまいか、マズいかは問題じゃない!? 「インド料理マニア」たちの深層心理
「現地風の店」が出店すると、なぜこれほど日本人は喜ぶのか。
日本人が「異国の味」に求めているものはなんなのか。
博覧強記の料理人が、日本人の「舌」を形成する食文化に迫るエッセイ。
前回は、稲田さんが初めて出会った「ガチ系インドカレー」の衝撃が綴られました。
インド料理編第3回目となる今回は、「インド料理マニア」と呼ばれる人たちの深層心理について。
インド料理編③ インド・ネパール系に対する複雑な想いと「原理主義」
前回までをお読みいただいた方には、とっくにバレバレだと思いますが、僕は概論で分類した③インド・ネパール系に対して、あまり良い感情は持っていません。もちろんその功績や存在意義は充分すぎるほど理解しています。ただそれは、ノット・フォー・ミー、自分にとっては必要性の薄いものであるし、正直さほど特別な魅力も感じません。
このシリーズを書くにあたって、僕はその感情をひた隠しにすべきかと随分迷いました。あくまで客観的に、その成り立ち、仕組み、功績、おいしさ、楽しみ方、そういったものをフラットな立場で紹介すべきではないか、と。しかし最終的にそれは無理だと結論しました。なぜなら成り立ちを解説するにしても、その良さを語るにしても、それはその他のカテゴリー、つまり僕が素直に愛するタイプのそれとの比較、相対化無しには成立しないと気付いたからです。
もちろん心苦しくもあります。なぜなら、インド・ネパール系を愛する人々はたくさんいるからです。たくさんどころか、日本においては完全に主流です。地方では特にインド・ネパール系しか選択肢のない地域がほとんどですし、他に選択肢がある都会でも、そちらを選ぶ人の方が大多数なわけです。自分が好んでいるものを貶められて気分のいい人なんていません。
もちろん僕とて、貶める意図はさらさらありません。しかし良くも悪くも僕はそれ以外のカテゴリーが好きすぎるのです。前回も、「デリーのようなカレー専門店」や「元バックパッカーによるガチ系」を賞賛するために、インド・ネパール店を当て馬のように扱ってしまいました。
しかし誤解していただきたくはないのですが、決して嫌いなわけではないのです。もし僕がインド・ネパール店しか無いエリアに住んでいて、それ以外のインド料理を知らなければ、何の不満も疑問も抱かず、むしろ足繁く通うと思います。前回はタイ料理との比較においてもまたインド・ネパール店を貶めたかのような形になってしまいましたが、それもまた、あくまでタイ料理知り初めし熱狂時代であった当時の感覚です。タイ料理にもすっかり日常的に慣れ親しんだ今となっては、少なくとも僕にとって両者はほぼ等価値。もし近所にインド・ネパール店とタイ料理店が一軒ずつあったら、おそらく交互に通うことになるでしょう。