2023.8.25
本当にインドのカレー?……バターチキンカレーに感じた「コレジャナイ感」
「現地風の店」が出店すると、なぜこれほど日本人は喜ぶのか。
日本人が「異国の味」に求めているものはなんなのか。
博覧強記の料理人が、日本人の「舌」を形成する食文化に迫るエッセイ。
前回は、日本におけるインド料理普及の超概論をお届けしました。
インド料理編第2回目となる今回は、稲田さんと運命のカレーが出会うまでの物語です。
インド料理編② インドカレーとの出会い、失望、そして覚醒
僕は子供の頃からカレーが大好きでした。もっとも、大抵の子供はカレーが好きなものです。僕もその中のひとりだったというだけのことです。
その頃、世の中には大まかに2種類のカレーがあると認識していました。家で食べるカレーと、カレー専門店のカレーです。家で食べるカレーももちろん好きでしたが、やはり後者は特別でした。その中でも特にお気に入りのカレー屋さんがありました。そこのカレーはさほどどろっとしてなくて、なんだか黒っぽく、そしてとにかく辛い。辛いだけでなく、よくわからないけど複雑な味がする。こういうのがおいしいカレーなんだな、と学びました。今思えばそのカレーは、レジェンド店のひとつであるデリーのそれとどこか似ていました。メニューにカツカレーなんかもある店でしたから、デリーよりもう少し普通のカレー屋さん寄りだったのかもしれませんが。
インドカレーを初めて食べたのは、90年代に入ってからだったと思います。この辺りの感覚は、東京で生まれ育った同世代の人々と大きく違うことを時々感じます。
彼らからは「子供の頃に親に連れられてインド料理を食べた話」をたまに聞きます。もちろんそれは、文化的でちょっと特別な家庭だったのかもしれませんが、少なくとも僕が育った鹿児島では考えられないこと。そもそも鹿児島には、当時インド料理店なんて(多分)存在しませんでした。