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日本人が外国料理に求めているのは「美味」とは限らない……? アメリカ料理が教えてくれること

日本ほど「外国料理」をありがたがる国はない……!
「現地風の店」が出店すると、なぜこれほど日本人は喜ぶのか。
日本人が「異国の味」に求めているものはなんなのか。
博覧強記の料理人が、日本人の「舌」を形成する食文化に迫るエッセイ。

前回までは2回にわたりスペイン料理について考察しました。
今回は、親密度のわりに茫洋なイメージしかない「アメリカ料理」を取り上げます。

アメリカ料理は(パリピと)「現地の味」原理主義者の楽園

「アメリカ料理」のイメージはとても漠然としています。ハンバーガー、フライドチキン、ドーナツ、ピザ、などなど、日本人がすっかり慣れ親しんだアメリカの料理は数あれど、なんとなくでも全体を包括するイメージが湧く人がどれほどいるでしょうか。
 これはひとつには「イタリア料理」「フランス料理」のように「アメリカ料理」を標榜する総合レストランが極めて少ないためでもありますが、それ以前の話として、根本的にアメリカ料理には明確な実体が無いということなのかもしれません。アメリカ料理の主なルーツはイギリス料理かもしれませんが、それはその後、世界中の様々な文化を貪欲に取り込み続けて発展しました。言うなれば、究極の寄せ集め文化と言えるのではないでしょうか。
 現代日本のアメリカ料理レストランにおける主要コンテンツのひとつであるテクス・メクスは、メキシコ料理がテキサスで変化したものです。ハンバーガーはドイツ系移民、ドーナツはオランダ系移民、ピザはイタリア系移民によってそれぞれもたらされた料理のローカライズ。フライドチキンは、それらとは少し文脈が異なりますが、アフリカ系の人々が生み出した文化です。
 このように統一的なイメージを持たないアメリカ料理ですが、ひとつだけ、日本人に広く共有されているイメージがあります。それは…………「決しておいしいものではない」というイメージです。味だけではありません。カロリーが高い。身体に悪そう。目にも毒々しい。アメリカ料理はそんなネガティブイメージの宝庫でもあります。

 先に言っておくと、決してそんなことはありません。これは少し考えれば当たり前の話です。なぜならばアメリカ料理は多国籍文化の寄せ集め。だから世界中のおいしいものが集まってくるし、随時アップデートされ続けるからです。
 そういった「特別おいしいアメリカ料理」が、アメリカ本国において果たしてどれだけ一般的かはまた別の話ですが、少なくとも日本においては、それにアクセスする機会はなかなかありません。なぜかと言えばアメリカンレストラン自体があまり存在せず、なぜ存在しないかと言うと、イメージが良くないからです。堂々巡りです。
 しかし、イメージが良くないにもかかわらず、実際のところ昔から日本人は、アメリカ料理を貪欲に取り込んできました。ただしそこには、それがアメリカ料理であるという意識はあまりなかったと思われます。なぜならば、少なくとも昭和の昔において、それは「洋食」と区別されていなかったからです。
 洋食とアメリカ料理は、どちらも主要なルーツのひとつがイギリス料理であるという共通点があります。そしてそれだけではなく、洋食はイギリスやフランスだけでなくアメリカのレストラン文化も取り込んで発展してきました。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など。近著に『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)。

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