2023.2.24
タイ料理が切り拓いた、和・洋・中以外の「第4の選択肢」
タイ料理とベトナム料理の違い
タイ料理に続くように、お隣の国であるベトナム料理もちょっとしたブームになりました。ベトナム料理とタイ料理の違いを、あえて乱暴に説明すれば、それは「ベトナム料理の方が上品」ということではないかと密かに思っています。乱暴すぎて怒られることは覚悟の上で言ってるので最初に謝っておきます。『ごめんなさい』。
タイ料理は、甘さ・しょっぱさ・酸っぱさ・辛味・うま味・香り、といった味覚の各要素が、全方位的にフルカウントしている料理です。そしてそれらが緊張感の中で見事にバランスしているのがその妙味。極めてインパクトの強い料理体系です。ベトナム料理はそれに比べて、香り以外の各要素がだいぶおとなしめです。それもあって、ベトナム料理にはタイ料理よりヘルシーなイメージがあります。
エスニックブームは、その黎明期において女性誌『Hanako』が大きな役割を果たしたことからもわかるように、女性層こそがその立役者でした。低カロリーでヘルシーな麺料理「フォー」をキラーアイテムとした「上品」で「おしゃれ」なベトナム料理は、タイ料理と並ぶエスニック料理として、女性を中心に大きな支持を集めました。
ここに来て「エスニック料理」は、タイ料理という「点」から、東南アジア料理という「面」になったのではないかと思います。更に当時の海外旅行ブームは、アジアンリゾートの代表とも言えるバリ島を擁するインドネシアや、更にシンガポールや台湾なども含めた広いエリアで、それまで未知だった食文化にスポットライトが当てられる現象を導きました。
「和・洋・中」という昔ながらの3軸が、「和・洋・中・エスニック」という4軸に進化したのが、この時代だったのでしょう。パクチーも魚醤も唐辛子も長粒米も、決してタイ料理のみに固有なものではなく世界の広い地域で愛されている普遍的な美味であることも、日本人はこの時代に少しずつ理解していったはずです。そしてもちろん僕自身も、その中のひとりでした。
そんなムーブメントにおいて常にその中心にあったタイ料理は、その後も幾度となく、ちょっとしたブームを呼び続けています。パクチーブーム、カオマンガイブーム、ガパオライスブームなどがそれ。ゼロ年代以降は世の中にすっかり定着し、もはや当たり前すぎて特に騒がれることもなくなったかのようにも見えるタイ料理ですが、そうやって思い出したように注目を集め、その度に着実に新たなファンを増やしています。
少し個人的な話をすると、この10余年にわたってインド料理に携わってきた僕にとって、それはとても羨ましい現象。インド料理にとってタイ料理は、常に朋友でありつつも、ライバル、いや、絶対に超えられないエスニック料理界の絶対王者でもありました。しかしそれはまた別の物語。いつかまたお話ししましょう。

次回は3月10日(金)公開予定です。
