2022.11.25
ネオ町中華にワンオペ中華……多様化する中国料理の現在地
「現地風の店」が出店すると、なぜこれほど日本人は喜ぶのか。
日本人が「異国の味」に求めているものはなんなのか。
博覧強記の料理人が、日本人の「舌」を形成する食文化に迫るエッセイ。
前回は、稲田さんの「大陸系中華」の原体験が綴られました。
今回は、さまざまな中華(中国)料理のバリエーションが共存する現状を総ざらいしてみます。
中国料理の現在とこれから
中国人によって、あくまで中国人同胞をメインターゲットとして営まれる、いわゆる「ガチ中華」。かつては街外れにポツリポツリと存在して異彩を放っていたそういう店も、今では東京の新大久保や池袋など集積地とも言えるエリアでは、すっかり街の風景の一角を形作っています。
こういった店を営んでいる中国人は、歴史的経緯もあって中国東北地方出身者が多く、当然メニューや味にもその出自が反映されます。四川料理を標榜していても、実はそれをやっているのは東北人であるケースも多いようです。なので逆に言うと、それ以外の地方の出身者にとっては、同じ中国料理と言っても違和感があるのは当然でしょう。なので最近は少しずつそれ以外の店も増えています。上海料理なら僕たちにもまだなんとなくわかりますが、山東料理とか湖南料理とか言われると、もはや何がなんだか……。でもとりあえず言えるのは、今や日本では中国各地の本場の味を、いつでも気軽に食べられるようになったということです。
ある中国料理通の方がこんなことをおっしゃっていました。
「日本では確かに本場そのままの中国料理を楽しめる店が増えました。しかしそのほとんどは本場と言っても『本場によくある大しておいしくもない店』の味なんですよ」
ちょっと過激な言い回しですが、言わんとするところは僕も少しわかります。
「ガチ中華」がまだ物珍しかった時代、僕はそういう店を見つけると手当たり次第に行っていました。しかしその中にはひどい店もありました。ある店では頼んだ料理のほぼ全てに小口切りのネギが載っており、そのネギは腐敗して糸を引いていました。最初はネギだけ避けて食べ始めましたが、すぐに断念して空腹のまま店を出たことがあります。
後になって思えば、僕が最初に出会ったガチ中華と言える〔K館〕の料理は、素朴ではあってもかなりハイクオリティだったと思います。その後手当たり次第に行った同種の店の中で、それを超える店は結局ほとんど無かったのです。
ネギが腐っていた店はさすがに例外中の例外とはいえ、ほとんどの店は結局、同じようなメニューで同じような味。僕は一時の熱狂から冷め、若干飽き始めてもいました。しかしその中でも時折「ここは特別うまいぞ!」と興奮するような店にいくつか出会ったのも確かです。
これはちょっと考えれば当たり前の話で、日本で和食を食べるにしたって、どこにでもある普通の味もあれば、特別おいしい店もある。そしてそこには個人の好みの問題もあります。身も蓋もありませんが、周りよりちょっと値が張る店はおいしいことが多いのも確か。そして先に書いた上海料理や湖南料理、山東料理といった地域を限定した店は(あくまでその看板に偽りが無ければですが)、プライドも高く料理も高品質であるように感じます。
いずれにせよ「ガチ中華」の世界もこれから多様化と選別が進むということなのでしょう。