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猫沢家は毎日が世紀末! 第12回 地獄のヴィザ更新から持ち上がる結婚話〜父のハルマゲドン事件

父の予言通り、実現しなかった結婚

 人類滅亡のような2時間が終わり、蕎麦屋の駐車場に出た。すると、駐車場の端っこで父と彼がなにやら話をしている。さすがの父も〝マッテオくん、エミをよろしく〟と声をかけているんじゃないかと思った私が甘かった。「エミのお父さんに〝オマエ、太ってんな。スーツがぜんぜん似合っとらんぞ〟って、せせら笑われた」と、後で彼が言っていた。穴があったら地球の反対側まで突き抜けて、なんなら宇宙の藻屑となってしまいたい気分だった。そもそもこの元彼とつきあいだした頃、家族の話をすると疑いのまなざしで見られていたのだが、彼が猫沢家に一度泊まった後、「ごめん。俺、実はエミのこと虚言癖じゃないかと思ってたんだけど……本当にいるんだな、こんな家族」としみじみ謝られた(笑)。

 そんな恐ろしいThe世紀末な結納式だったにもかかわらず、彼のお父さんとお母さんは、その後も何事もなかったかのように私を大事にしてくれて、ホッとしていたのも束の間、翌年には残念ながら彼のお父さんが亡くなり、1年の喪に入り結婚延期。さらにその翌年、100歳を超えて存命だった彼のおじいちゃんが亡くなって、再び1年の喪に入り結婚延期。さらに翌年には彼が会社を興したため、安定するまで結婚は様子見、ということになり、結婚はどんどん遠のいていった。
 結納式から12年後、その彼とは別れることになる。父に深い思慮があったとは到底思えないが、妙に野生のカンだけは鋭かった父は、私たちの未来を見通して邪魔に入ったのではないか? と、あれだけ酷い目に遭ったにもかかわらず、どこか父を擁護したい気持ちが残るのは、私もただの人の子か。
 
 現在のフランス人パートナーが、初めて日本を訪れていた2017年の冬。末期の大腸ガンで緩和ケア中だった父が、母に見守られて静かに旅立った。「日本にやってきた娘の未来の花婿の顔を一目見て、安心したかのようなタイミングで父は逝ったね」と言った私を、彼は強く抱きしめて「お父さんから託された、エキセントリックな家育ちの面白い娘を大切にするよ」と言った。これが私の未来だって知ってたのかもね。

 お父さん、ハルマゲドンをありがとう。ノストラダムスに夜露死苦。

次回は4月20日(木)公開予定です。どうぞお楽しみに!

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猫沢エミ

ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に料理レシピエッセイ『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。
9月、一度目のパリ在住期を綴った『パリ季記 フランスでひとり+1匹暮らし』が16年ぶりに復刊(扶桑社)。また、12月9日には最新刊、愛猫イオの物語『イオビエ』(TAC出版)が発売されたばかり。

Instagram:@necozawaemi

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