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悪夢を蘇らせるトラウマスイッチは国境を越えて 第7回 風呂(バス)ガス爆発〜猫沢家の日常で繰り返される、家庭内連続爆発事故

料理レシピエッセイ『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』、愛猫との日々を描く『猫と生きる。』がロングセラーとなっている猫沢エミさん。
2022年2月14日、コロナウイルスの終息が見えないなか、2匹の猫と共に再びフランスの地を踏み締めた。16年ぶり、二度目の移住のために。
遠く離れたからこそ見える日本、故郷の福島、そしていわゆる「普通」と一線を画していた家族の面々……。フランスと日本を結んで描くエッセイです。

第7回 風呂(バス)ガス爆発〜猫沢家の日常で繰り返される、家庭内連続爆発事故

すわ、またしてもテロか?!

 2019年、1月12日。パリ右岸、9区のトレヴィーズ通りにあるパン屋で、大規模なガス爆発事故が起きた。爆発音は四方数キロにわたって轟き、周辺カルチエ(界隈)を一瞬で壊滅状態に追いやるほどの大惨事だった。死者4名、負傷者66名、建物倒壊などの被害者は400名に上り、その後の事故調査で、原因はパン屋のある建物地下を通っていたガス管さいによるものと検察官が発表した。
 市内の広範囲に響き渡った爆発音を耳にしたパリジャンの誰しもが「すわ、テロか⁈」と身をこわばらせた。2015年の1月に起きた《シャルリー・エブド事件:パリ右岸、11区にある週刊風刺新聞「シャルリー・エブド」の本社に、イスラム過激派テロリストが乱入し、編集長、風刺漫画家などを含む12名を殺害した事件》と、同年11月13日に起きた《パリ同時多発テロ事件》から4年後の2019年は、テロがまだまだ記憶に生々しい時期だったのだ。
 パリ市のずさんな管理体制も問われたこの事故が起きた頃、移住を視野に入れたアパルトマン探しのため、9区の不動産情報をインターネットであれこれ集めていた私。というのも、爆発現場からほど近いメトロ12番線のノートル=ダム=ドゥ=ロレット駅周辺には、ハイセンスなお店が結集していて、当時の私が最も住んでみたいカルチエだったから。
 この頃、パリ市内で引越しを考えていたある友人も、このエリアに目をつけていたようだが、事故後、「ここはないな……」と、候補から外した。それを聞いた私は「うん、残念ながらないね……」と相槌を打ちながらも、心の中で〝私はぜんぜん違う理由で、だけどね。とにかくガス爆発だけは、ダメだ。ゼッタイ〟と呟いていた。

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新刊紹介

猫沢エミ

ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に料理レシピエッセイ『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。
9月、一度目のパリ在住期を綴った『パリ季記 フランスでひとり+1匹暮らし』が16年ぶりに復刊(扶桑社)。最新刊は、愛猫イオの物語『イオビエ』(TAC出版)。

Instagram:@necozawaemi

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