2023.2.16
祖父がこしらえた異様な水槽の中身とは……第11回 姪っ子メイコとのPlayなデートで蘇る、おじいちゃんとのアヴァンギャルドなアートPlay
『パリ季記』の復刊に続き、12月には書き下ろしの『イオビエ』が発売されます。
2022年2月14日、コロナウイルスの終息が見えないなか、16年ぶりに猫沢さんは2匹の猫と共に再びフランスに渡りました。
遠く離れたからこそ見える日本、故郷の福島、そしていわゆる「普通」と一線を画していた家族の面々……。フランスと日本を結んで描くエッセイです。
前回は「お風呂」にまつわる、猫沢家ならではの仰天エピソードが明らかに。
今回は、猫沢さんの美的感覚に多大なる影響を与えた、ある幼少期の出来事を振り返ります。
第11回 姪っ子メイコとのPlayなデートで蘇る、おじいちゃんとのアヴァンギャルドなアートPlay
年が明けて1月下旬、移住後、私は初めて日本へ帰国した。主な目的は昨年出版した2冊の本のプロモーションだったが、個人的な心情としては、日本でお世話になった友人たちに直接会ってお礼を伝えたい気持ちの方が強かった。1年前の移住時は、まるで逃げる泥棒のように、こけつまろびつ故郷をあとにせざるを得なかった。オミクロン株が猛威を振るうなか、それでなくともややこしい、猫2匹を連れての海外移住。加えて、東京のマンションを移住のタイミングと当時に売却するという離れ業付きだったので、人と会う時間がまったく取れなかった。わりと律儀な私はこの1年、あの時の不義理がいつも心に引っかかっていた。そして、今回の〝移住後初の日本帰国〟までが、本当の意味での移住完了を意味するのだろうと考えていた。
そうして降り立った1年ぶりの東京。当初は、さほど入っていなかった取材や打ち合わせの依頼が増え、友人、家族との再会etc.……と、フタを開けてみたら殺人的スケジュールになってしまった。それでもこの日だけはと空けていたのは、下の弟ムーチョの長女、つまり私の姪っ子・メイコ(仮名)とのデートだった。明後日にはもうパリへ戻らなくてはいけなかった滞在終盤のある日、メイコを連れて東京・立川にある「絵とことば」がテーマの美術館 PLAY! MUSEUM に出かけた。
ところで今回のデートの前、ムーチョとLINEでこんなやりとりがあった。
私:「このまえさ、メイコの6歳の誕生日だったでしょ? プレゼントをあげたいんだけど、なにがいいかな?」
ム:「モノはいらないから、思い出を作ってあげてほしいんだ。忙しいと思うけど、ゆっくりメイコと過ごす時間を確保してもらえたら」
……涙がチョチョぎれそうだった。こんな一族のなかで育ったというのに、うちの弟といったら、こんなにまともな人間になって、と。そうなのだ。上の弟T1も、下の弟ムーチョも心根の優しい、至極まともな大人へと成長した。まとも以上にまともなふたりと私、猫沢家の三姉弟のまともな人格形成については、一族の謎であった。
父の葬儀の際にも、親類から「あんたたちは、あんな大変な親に育てられたのに、よくもまあこんなに立派になって」と涙ぐみながら言われ、3人声を揃えて「最強の反面教師ですよ。ハハハ」と乾いた笑いを飛ばしていた。そして、まだ生まれて間もなかったメイコの子育てを「大変でしょう?」と、親類に気遣われたムーチョが「簡単です。うちの親がしてきたことと真反対をやれば、正解です」と、ピュアな眼差しで決然と言い放った瞬間、私の脳裏には、かのアインシュタインの美しい数式が浮かび上がった。
E=mc²
この数式が意味するところ――〝わずかな物質にもエネルギーが秘められている〟つまり、わずかな希望にも可能性が秘められている――そう、猫沢家のような子どもにとって過酷な環境下にあったとしても、まともな大人になることができるという光!