2023.1.19
猫沢家に伝わる風呂好きDNA 第10回 おじいちゃんの腐ったみかん風呂〜ニッポン文化OMOTENASHI大使の不運な過去
祖父考案の〝雑草風呂〟
私が小学校高学年頃だったと思う。この日の夜も、ご機嫌に風呂の準備をしていたのは、あの祖父だった。これといった仕事がなかった祖父にとって、人生は大いなる趣味の時間だったから、その時期ごと、様々な趣味に没頭していたのだが、この頃は〝家の裏手にある駐車場の雑草研究〟というのがマイブームらしく、毎日数種類の雑草をとってきては、何かに転用できないかと謎の試行錯誤を繰り返していた。祖父ひとりであれこれやっているぶんにはいいのだが、雑草をリカーに漬け込んだ、彼曰く〝健康酒〟を勧められるなど、家族を巻き込んだ場合がやっかいだった。
そもそも嫌な予感はしていた。数日前、つんだ雑草をふんだんに入れた〝雑草風呂〟を祖父が支度して、一家はすでにザワついていたからだ。しかしまさかあんな角度で来るとは、祖父とはわりとツーカーの仲だった私ですら予想できなかった。
いつものごとく、仏間に置かれた巨大な鐘を脱衣籠代わりに服を脱ぎ捨てると、掘っ立て小屋の風呂場へ向かい、風呂のフタを開けた。すると、知っているような、知らないような異様な匂いが立ち上り、一瞬湯気で遮られた視界に飛び込んできたのは、よくわからないトロリとしたものと小さなつぶつぶの何かであった。ファンタジー映画の魔女の薬釜へ入るがごとく恐る恐る体を沈めてみると、えも言われぬもわんとしたカビ臭が立ち上り、思わず咳き込んだ。それ以上に、肌へまとわりつく質感の気味の悪さに耐えられず、小屋横のベランダで洗濯物を干していた母に向かって叫んだ。
「おかーさーーん! なんか風呂がおかしいんだけど!!」
すると、母から驚愕の答えが返ってきたではないか。
