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猫沢家に伝わる風呂好きDNA 第10回 おじいちゃんの腐ったみかん風呂〜ニッポン文化OMOTENASHI大使の不運な過去

一歩入れば、そこは猫沢温泉

 彼に〝風呂に入る〟素晴らしさを理解してもらう絶好のチャンスが訪れた。入浴大国ニッポンのOMOTENASHI魂を発揮し、まず、湯の温度は熱すぎない40℃でためる。私なら42℃だが、これにフランス人を浸けるとダチョウ倶楽部の熱湯風呂のようなことになる。猫舌フランス人は、舌だけでなく肌も熱さに弱いのだ。ちょうどいいお湯加減のバスタブにチェコのハーブ入りバスソルトを入れ、バスルームにキャンドルをいくつも置いて、Bluetoothスピーカーからは、Directorsoundの名アルバム『Into the Night Blue』っていう、自分でも惚れ惚れするような選曲でオンエアー……と、一連の準備を嬉々としてやっていたら、なんだか自分が怪しいリラクゼーションサロンのオーナーみたいに思えてきた。そう。私には入浴への並々ならぬこだわりがある。

「お客さま〜、準備が整いました」

と、それらしく声をかけると、彼がおもむろに湯船に浸かった。そして、

「だは〜〜〜……(忘我)」

と声を上げ、そのまま目を閉じて深い瞑想の世界へ降りていった。

 その姿を陰からそっと眺めていた私は、〝堕ちた……!〟と小さくガッツポーズを決めながら、この入浴へのこだわりがどこから来ているのかを、確かに察知していた。

 あの忌まわしい思い出……風呂運のない私――

 その発端は、もちろん猫沢家の歴史に由来する。そもそも爆発しやすい風呂(第7回参照)で育ったというだけで、じゅうぶん風呂運には恵まれていないが、悲劇はそれだけでは終わらなかった。

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猫沢エミ

ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に料理レシピエッセイ『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。
9月、一度目のパリ在住期を綴った『パリ季記 フランスでひとり+1匹暮らし』が16年ぶりに復刊(扶桑社)。また、12月9日には最新刊、愛猫イオの物語『イオビエ』(TAC出版)が発売されたばかり。

Instagram:@necozawaemi

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