2021.11.6
「一体、誰の子どもを妊娠した?」理想の妻の恐ろしい二面性(第21話 妻:麻美)
連絡が途絶えた人妻
『あさみ、次はいつ会える?』
『最近忙しい? あさみに会いたいよ』
『元気?何かあった? 大丈夫?』
午前中から2時間近く続いたオンライン会議を終えると、晋也は大きく伸びをしながらスマホを手にとった。
この数週間、麻美からの連絡がプツリと途絶えた。
晋也が送り続けたメッセージには既読がついているものの、まるで無反応。そんなことは珍しかった。
彼女はいつも絶妙な頻度で晋也の部屋を訪れていて、関係は良好だった。
人妻という自分の立場を十分にわきまえているのだろう。晋也の腕の中にいる時はまるで少女のように甘えたそぶりを見せるけれど、一度服を身に着けると、途端に他人行儀になったりする。離れているときの連絡も最低限だ。
そんな人妻との関係は非常に心地よいものだったが、さらに興味深いことに、ここ数ヶ月の彼女の活躍はめざましいものだった。
いわゆるセレブ妻として暇と鬱憤を持て余しているのかと思っていたら、突然「起業する」と言い出し、晋也も目を見張るほどの行動力を発揮し始めたのだ。
一流の総合商社勤務と言っても、所詮は会社の奴隷。
出世競争に社内政治に飽き、頭の硬い上層部や生意気で無能な後輩にいちいち苛立つこともなくなり、良くも悪くも「足るを知る」の意味を理解し始めた時期であったから、そんな麻美をそばで見ているのは単純に面白かった。
働かずとも十分に裕福な生活を送れる彼女が、あれほど貪欲に仕事、そして自分のような男を求める理由は何なのか。
どんどん社会の枠から外れていく麻美は、人妻との情事というスリルに加えて、まるでドラマの主人公でも眺めているような、ある種のエンターテインメントを晋也に与えていた。
けれど自分が結婚するならば、妻選びは慎重にならなければならない。
麻美のような女は魅力と刺激には事欠かないが、あの様子では家を任せることはできないだろう。表面的な印象で女の本性は判断できないと学べたのはありがたい。
そんなことを考えていた矢先、しばらく音信不通だった彼女は、晋也にとんでもない告白をしたのだった。