2021.7.31
「損する離婚はしたくない」〜妻に1,000万円を奪われた夫の、狡猾な戦略(第14話 夫:康介)
妻の目を盗み、不倫相手との情事にふける不良夫
「先生、今日も来てくれて嬉しい」
息が上がるほどの激しさで二人して果てた後、瑠璃子が名残惜しげに肌を密着させてきた。康介は答えの代わりに彼女の肩を抱き、柔らかな二の腕を優しく撫でる。
黙ったまま西側の窓に目をやると、昼間だというのに閉められたカーテンの隙間から、オレンジ色の陽が差し込むのが見えた。
瑠璃子の寝室で裸のままこの景色を眺めるのは、今週すでに3度目だ。
康介の事務所でもリモートワークが推奨されているから、必ずしも出社する必要はない。かといって家には麻美がいて息が詰まるし、これまでは他に行く場所もなかったが、瑠璃子から「だったらウチで仕事して」と言われ、隙を見ては通うようになってしまった。
夜は必ず早い時間に戻っているから、疑われることはないはず――。
そう考えて、閉じた瞼に勝ち誇ったような妻の笑みが浮かび、康介は瑠璃子に隠れて小さくため息を吐いた。
『開業資金1,000万円を、こうちゃんにお願いしたいの』
自分だって散々夜遊びしていたにもかかわらず、たった一度の朝帰りを盾に取り、当然のごとく大金を渡すよう迫ってきた妻。
離婚訴訟では負けナシの弁護士の名まで挙げて、ゆすりも同然だった。
別に、離婚が怖いわけじゃない。ハッキリ言って、麻美とは別れたっていいと思っている。彼女はもはや結婚当初の妻とは別人だ。
それでも麻美の言いなりになって1,000万円を振り込んでやったのは……康介なりに考えがあるのだった。