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離婚するのは、夫の「利用価値」がなくなってからでいい。夫の浮気を見逃した妻の策略(第13話 妻:麻美)

あなたは「結婚」という制度に疑問を感じたことはないだろうか。 連日メディアを騒がせる不倫ゴシップは氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……結婚制度が定められた120年以上前とは、社会も価値観も何もかも違っているのだ。 これは時代にそぐわぬ結婚制度の抜け穴を探し始めた、とある夫婦の物語。 仮面夫婦状態の櫻井夫婦。妻・麻美は夫の浮気を確信したタイミングで、結婚前に心惹かれていた男・晋也と一線を超え心の安定を図る。さらにエステサロンの起業を決意し、その資金を康介に出させようと企むが――。 前話はこちら、全話一覧はこちら。 (隔週土曜で更新予定です)

「私、すごく傷ついてるの」被害者を演じる妻の策略

「エステサロンを開業するから……その資金1,000万円、こうちゃんにお願いしたいの」

夫の目をじっと見つめてそう言うと、その顔はみるみる引きつり始めた。

「渡せるワケがないだろ。そんな金はない」

よく言うよ、と麻美は心の中で呆れる。自分が夫の資産の詳細を知らないとでも思っているのか。

石橋を叩いて渡る性格の康介は、よく言えば堅実で散財はしない。30代半ばの男にしては相当な額を貯め込んでいることを麻美はきちんと把握している。

そんな彼の堅実さを、これまでは静観していた。夫として、家族として、多少面白味に欠けても資産を蓄えてくれるのは単純にありがたいと思うようにしていたのだ。

けれど今、すっかり仮面夫婦化が進み、お互いに個人プレイを楽しむならば、資産なんてどうでもいい。子作りの予定もなく、いつまでこの男と夫婦でいるかも分からないのに、お金を貯め込むことに何の意味があるだろう。

麻美はずっと康介に尽くしてきたし、彼の理想とする妻をままごとのように演じてきてやった。その対価を多少なりとも貰うのは当然だし、渋るのであれば奪うまでだ。

「ねぇこうちゃん。私、こう見えてすごく傷ついてるの」

笑顔を消してそう言うと、康介の瞳が揺れた。

「分かるかな、朝まで眠れずにずっと待ってる気持ち。あの日のこうちゃんのお洋服、すごく甘い香りがしたね。でも、私の仕事を応援してくれるなら、辛いけどなかったことする……もしそれがダメなら……あ、橘先生、お元気かな」

とどめに、離婚訴訟に強い弁護士の名前を挙げる。

すると康介の顔からみるみる血の気が引いたので、麻美は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。

子どももいない、夫への執着もない。「持たざる女」は強いのだ。

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山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

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Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

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