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不良夫婦
あなたは「結婚」という制度に、疑問を感じたことはないだろうか。

連日メディアを騒がせる不倫ゴシップなど氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……出会いの機会が爆発的に増える一方、多くの夫婦が良好な関係の維持に苦戦しているのもまた事実。セックスレス、不妊、モラハラ、DV......問題は山積みで、それが令和時代の夫婦を取り巻く現実だ。

これは120年以上も変わらない今の結婚制度に限界を感じ始めたと夫と妻が、それぞれの視点で語るストーリー。

仮面夫婦状態の櫻井夫婦。従順であったはずの妻・麻美は不良化し、夜遊びが増え、浮気疑惑まで勃発。そんな中、夫・康介はクライアントである小坂瑠璃子に思わず現状を愚痴ると「奥さんじゃなく、私を選べば良かったのに」と言われ、動揺してしまう――

前話はこちら、連載一覧はこちら

(隔週土曜で更新予定です)

「この結婚は失敗だった」…自慢の妻に幻滅したエリート夫が初めて離婚を意識した理由(第10話 夫:康介)

誘惑に負け、不良夫への第一歩を

「あ。ここで降ります」

瑠璃子が気怠い声を出したので、康介もゆっくり首を動かし車窓へと視線を向けた。

場所は、恵比寿と広尾の間あたりだろうか。二人が乗ったタクシーは、オレンジの光が灯るマンションのエントランスで静かに停車した。

未だ躊躇している康介をよそに、瑠璃子はさっさと支払いを済ませる。そして絡めた指に力を込めると「先生、行きましょう」と囁いた。

『奥さんじゃなくて、私を選べば良かったのに』

ついさっき、瑠璃子が言ったセリフ。あれは一体、どういう意味だったのか。

問いただすことも笑って誤魔化すこともできず、康介はただ動揺するだけだった。ところが暫し言葉を失い黙り込んだ康介を、彼女は肯定的に受け取ったらしい。

「先生、よかったらウチで飲み直しません!? いただき物のメキシコワインがあるんです」

酔いに任せてなのか、テンション高くそう言って部屋へと誘ってきたのだ。

当然、瞬時に麻美の顔が浮かんだ。しかしすぐに、不良妻と化した麻美に義理立てる必要もないと思い直した。だいたい、妻の方だって夜遊びしているのだから。

そうして康介は、促されるまま瑠璃子とともにタクシーに乗り込んだ。そっと触れてきた柔らかな指先を、振りほどくこともしなかった。

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安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
Instagram●yuka_yasumoto
Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




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