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「離婚しちゃえばいいのに」他人の夫と寝た女が抱く、優越感と身勝手な妄想(第12話 夫:康介)

あなたは「結婚」という制度に疑問を感じたことはないだろうか。 連日メディアを騒がせる不倫ゴシップは氷山の一角。女性の社会進出、SNSや出会い系アプリの普及……結婚制度が定められた120年以上前とは、社会も価値観も何もかも違っているのだ。 これは、時代にそぐわぬ結婚制度の抜け穴を探し始めた、とある夫婦の物語。 仮面夫婦状態の櫻井夫婦。夫・康介はクライアントである小坂瑠璃子と衝動的に一線を超え、妻・麻美も晋也と男女の仲に。康介を誘惑する瑠璃子の思惑とは? そして、妻が虎視淡々と進める「起業資金計画」はどうなる――? 前話はこちら、全話一覧はこちら。 (隔週土曜で更新予定です)

情事の翌朝…不倫女が抱く、束の間の優越感

自室のベッドに横たわったまま、小坂瑠璃子は静かに右手を伸ばしてみた。

まるで赤子に触れるように優しく、シーツの皺をそっと撫でてみる。心なしか、つい先ほどまでここで寝ていた男の気配を感じとり、安堵とも優越ともつかない感情が広がった。

今日はこのまま、終日をベッドで過ごしたい。櫻井康介は帰るべき場所に戻ってしまったが、せめて残された温もりに包まれていたかった。

そうしていれば、ありありと思い出せるのだ。抱き寄せられた腕の力強さ、思うよりずっと滑らかだった肌、夢中で吸った唇の柔らかさや優しい視線、息遣いまで。

それらは全部、夢じゃない。現実世界で、この私だけに向けられたもの――

「離婚しちゃえばいいのに」

一切の罪悪感も躊躇もなく思わず言葉が漏れ、その声の冷たさに自分でゾッとした。

しかし康介の話では、妻の麻美にも別の男がいるらしいのだ。

瑠璃子が初めて心を開きたいと思った男を、あっという間に惚れさせてセレブ妻となった女。エリート弁護士の夫に養われ、優雅な専業主婦ライフを謳歌しているくせに、その立場もわきまえず別の男に走る女……。

身の程を知らない彼女に、何かしらの罰がくだっても仕方がない。正確な分析は難しいが、瑠璃子が康介を誘った動機の中には、そういう種類の感情も含まれていた気がする。

彼女の悪事に比べれば――私のしたことくらい、許されてもいいはずだ。

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山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

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