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「離婚しちゃえばいいのに」他人の夫と寝た女が抱く、優越感と身勝手な妄想(第12話 夫:康介)

妻が突如口にした、あり得ない提案

「あ、お帰りなさい」

その夜、康介が普段より少し早めに帰宅すると、エプロン姿の麻美が駆け寄ってきて目を疑った。

――?!

どうせ今夜も妻は自分を無視するだろうから、またウーバーイーツでも頼もう。もはや何も期待せず帰宅したのに、わざわざ玄関まで出迎えにくるとは何事だろうか。

「あ、ああ。えーっと、ただいま……」

どもりながら答える。こういう時は、どういう顔をするのが正しいのだろうか。頬を引きつらせながらリビングに向かうと、キッチンに康介の好物であるサバの味噌煮が用意されていて二度見してしまった。

「お腹空いてるでしょ? ここのところバタバタしちゃって、夕食も作れずごめんなさい」

今朝の麻美とは別人のように、彼女はしおらしく謝ってくる。そして呆然とする康介をよそに、手際よくテーブルに器を並べ始めた。

「実は、こうちゃんに折り入ってお願いがあるの」

数ヶ月ぶりに食卓で向かい合うと、麻美は笑顔のままで切り出した。

ただならぬ予感がして、とっさに身構える。何かがおかしいということはわかっていたが、彼女の頭の中がさっぱり理解できない。

まさか……あり得ないことだが、瑠璃子との一件がバレたのだろうか?しかしそれなら、わざわざ好物を用意して帰りを待ったりしないだろう。

頭をフル回転させながら、康介は妻の次の出方を待つ。すると麻美はサッと真顔になり、思いもよらない言葉を口にした。

「私に1,000万円を出して欲しいの」

「……は?」

あまりに突拍子もない話で、すぐに意味を理解できなかった。なんだって……? 1,000万円……?

口を開けたまま固まる康介の目の前で、麻美は大したことないと言わんばかりの表情で話を続ける。

「前にも話したでしょ? 私、起業の準備を進めてるの。エステサロンを開業するから……その資金1,000万円、こうちゃんにお願いしたいの」

起業……? 開業資金……? ここのところずっとPCに向かっていたのは、そのせいだったのか。頭の中で点と点が繋がるも「はい、そうですか」だなんて言えるはずがない。

「な……何を言ってる。そもそも俺は、妻が起業するなんて許した覚えはない。それに1,000万円!? 渡せるワケがないだろ。そんな金はない」

こんなことを話すために、急に態度を変えて小細工したのか――怒りを通り越して半ば呆れながら、康介は断固とした口調で突っぱねた。

しかし麻美のほうも何かを企んでいる様子で、まったく引く気配を見せない。再びわざとらしく笑顔をつくり、こう言い放った。

「許すとか許さないとか……こうちゃんに、そんな権利はないと思うけど」

その瞳はゾッとするほど挑発的で、康介は不本意ながらも怯んでしまった。

(文/安本由佳)

※次回(妻:麻美side)は7月17日(土)公開予定です

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
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Twitter●安本由佳|WEB作家@軽井沢

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