2026.10.4
“地獄”にあるのに、ここは“天国” ⁉ 滝つぼがそのまま温泉になった「川原毛大湯滝」【山の名&珍プレイス 第11回 前編】
本連載では、アウトドア雑誌や山登りの指南本、TV番組や各種イベント出演でもおなじみの山岳ライター・高橋庄太郎が、豊富な山経験をもとに、自分の足でわざわざ見に行く価値がある、こだわりの山の名スポット・珍スポットを紹介していきます。
山の“見どころ”のひとつが、急峻な岩場からダイナミックに流れ落ちる「滝」。そして、山の“楽しみ”のひとつが、大地から湧き出してくる天然の「温泉」でしょう。そこで思うのが、そんな山の見どころと楽しみをいっしょに味わえたら、どんなにすばらしいのか、ということ。じつは日本にはそれらの魅力を同時に味わえる場所もあるのです! それはつまり、「温泉が流れ落ちる滝」。しかも滝つぼに温泉が溜まっていたら、最高ではないですか! ここではそのなかでも貴重な存在の「歩いてしか行けない滝つぼの湯」をご紹介いたします。
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「川原毛」の地獄を進むと現われる、その名も「大湯滝」
山の大きな楽しみが、「温泉」だ。以前この連載で紹介した北アルプスの高天原温泉のように、往復に山中3泊4日もかけなければならない野趣あふれる秘湯もあれば、歩いてしか行けないものの、山小屋のレベルをはるかに超えた豪華な旅館に泊まれるリゾート地のような温泉もある。ひとくちに山中の温泉といっても、そのバリエーションは幅広い。また、クルマで行ける観光地の温泉に求めるものは、主に「心身をリラックスさせる快適さ」だろうが、山中の温泉には「経験としてのおもしろさ」が加わってくるのが少し異なるところである。
今回紹介するのは、「経験としてのおもしろさ」を心から堪能できる温泉だ。そのおもしろさとは、なんと「滝つぼが温泉になっている」という点。つまり、温泉が流れる沢があり、それが滝となって下り落ち、その真下の滝つぼが湯船のようになっている……というスポットである。日本には数カ所あるのだが、ここでは登山ルートがつけられていて、誰もが体験できる場所をピックアップしよう。
まずは、温泉の豊富さでは日本有数の北東北から「川原毛大湯滝」。山形県、宮城県との県境に近い秋田県最南部の湯沢市に位置する、奥羽山脈の山の中。登山道を歩いてしか行けないものの、いちばん近い駐車場からであれば往復に1時間もかからない。早い人なら30分ほどだ。どこかに料金場があるわけではなく、完全に無料である。

この川原毛大湯滝は、600万年前の火砕流で生まれた三途川カルデラのなかの「川原毛地獄」の一角にある。標高は700~800m程度で、広々と灰色の岩や砂に覆われており、草木はまったく生えていない。たしかに地獄を思わせる風景だ。この地は大同2年(西暦807年)に月窓和尚が開山したといわれている“霊地”である。


滝つぼは適温ながら、源泉の温度は熱すぎる約94.5℃
なにかと「三大」が好きな日本人とあって、この川原毛地獄は青森県下北半島の「恐山」、富山県の北アルプス「立山」とともに、“日本三大霊地”とされている。率直に言って、それら3カ所のなかで川原毛地獄は著しく知名度が低い。この記事を読む前から「川原毛」という地名を知っていた人は、いったいどれくらいいるのだろう。だが、知名度が低いからといって、その魅力まで低いわけではないのだ!


滝の上流1kmほどの場所にある源泉の温度は、約94.5℃もある。熱湯に近いが、そこに冷たい沢水が流れ込むことによって、偶然にも滝つぼでは40℃前後になっているのがすばらしい。まさに適温ではないか! ただし、これは沢の水量がほどほどのときのことであり、雨で水量が増せば冷たくなる。湯温は気温にも左右され、適温なのは7~9月くらいの数か月。また、豪雪地帯とあって、11月から半年ほどは通行止めになる。1年中楽しめるわけではないので、注意が必要だ。


さて、大小の岩が点在し、白砂で起伏する川原毛地獄の遊歩道を進んでいくと、川原毛大湯滝への入り口に到着する。ここからは500m程度と短距離ながらも本格的な登山道だ。ルート上には照明もなく、遅い時間に行く場合はヘッドランプを持参したほうがいいだろう。


それにしても、滝下に溜まった温泉の40℃前後という温度といい、腰程度の湯船(滝つぼ)の深さといい、本当に絶妙なレベルである。これが人工的に調整されたものではないのだから、できすぎだ。

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