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ヒグマが出没したら、通行止め! 沢の中を歩いて向かう 秘境中の秘境「カムイワッカ湯の滝」【山の名&珍プレイス 第11回 後編】

登山といえば、目的地はやはり山頂? いや、山頂以外にも目指すべきおもしろい場所はたくさんあるのです! それは、怪奇現象が起きる不思議な場所だったり、ユニークな逸話がある名所だったり、見たこともない大木や不思議な形をした巨岩だったり……。
本連載では、アウトドア雑誌や山登りの指南本、TV番組や各種イベント出演でもおなじみの山岳ライター・高橋庄太郎が、豊富な山経験をもとに、自分の足でわざわざ見に行く価値がある、こだわりの山の名スポット・珍スポットを紹介していきます。

「滝」と「温泉」というふたつの山の魅力を併せ持つ「温泉が流れている滝」。山岳国、かつ温泉大国の日本でも非常に珍しく、しかも“歩いてしか行けない”というちょっとした登山の楽しみまで持っている場所はさらにレアな存在です。行ける期間が限られていたり、季節によってはお湯加減がイマイチだったりもしますが、滝つぼに温泉が溜まっていたら、一度は入ってみたいという人は多いことでしょう。前編に続いて、
後編では、ヒグマにも遭遇しかねない秘境中の秘境、知床半島の「滝つぼが温泉」をご紹介いたします。

バナー・本文写真/著者提供

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「カムイワッカ湯ノ滝のぼり」として、2023年に立ち入り通行が解除されたばかりの秘湯

日本は温泉大国だ。旅館のような宿泊先を持つ温泉は全国で2900カ所を超え、宿泊地を持たない源泉だけであれば、約28000カ所にもなるという。そのなかには温泉が沢に流れ込んでいる場所はそう珍しくないが、「滝つぼが湯船」になって適温で入れる場所となると、さすがにほとんど見られない。

そんなレアな場所のひとつが、北海道に存在している。北方領土を除く日本最北東端、世界自然遺産である知床の「カムイワッカ湯の滝」だ。

知床という場所自体が日本の最果てだが、カムイワッカ湯の滝は知床の中でも最奥の地にある。ホテルや旅館が立ち並ぶ最寄りのウトロの町から30km近くもクルマで走らねばならず、そのうち11kmは未舗装の砂利道。カムイワッカ湯の滝の入り口のすぐ先で車両は通行止めとなり、まさに日本の末端である。そこから硫黄山に登る登山道は続いているとはいえ、エゾシカに加え、ヒグマと遭遇することもまったく珍しくない大自然だ。

カムイワッカ湯の滝に向かう道道93号知床公園線。奥に見えるのは日本百名山の羅臼岳だ
カムイワッカ湯の滝に向かう道道93号知床公園線。奥に見えるのは日本百名山の羅臼岳だ

昔から秘湯マニアには有名な場所だったが、落石が多発し、転倒事故も多発するなどの問題が多く、近年は「2の滝」と呼ばれる場所より奥は立ち入り禁止とされていた。だが、その魅力を知るファンからの要望は強く、とうとう2023年に制限を解除。それ以降、「カムイワッカ湯ノ滝のぼり」として知床財団が管理・運営するようになり、シーズン中は係員が常駐して安全管理を行なっている。ちなみに「カムイワッカ」とはアイヌ語で「神の水」を意味している。

砂埃を巻き上げながら未舗装路を延々と走っていくと、やっとカムイワッカ湯の滝の入り口に到着。ここに「カムイワッカ湯ノ滝のぼり」の受け付けがある
砂埃を巻き上げながら未舗装路を延々と走っていくと、やっとカムイワッカ湯の滝の入り口に到着。ここに「カムイワッカ湯ノ滝のぼり」の受け付けがある

どの滝がお好み? 70℃の源泉が谷を流れ、数段の滝を下っていく

このカムイワッカ湯の滝はいくつかに分かれ、知床連山にそびえる硫黄山の中腹に位置するカムイワッカ川のなかにある。川に温泉が流れ込むのは、カムイワッカ湯の滝入口の上流400~500mほどのポイントで、岩の割れ目から流れ出した約70℃の温泉に冷たい沢の水が徐々に加わっていき、下流に行くほど次第に湯温は下がっていく。

登山者に人気が高い硫黄山。この中腹にカムイワッカの源泉がある
登山者に人気が高い硫黄山。この中腹にカムイワッカの源泉がある
登山道からの風景。植物で覆われていてわかりにくいが、中央部の少し低い位置がカムイワッカ川。1936年の硫黄山の噴火の際は20万トンもの硫黄が流れ出し、カムイワッカ川を埋め尽くしたという
登山道からの風景。植物で覆われていてわかりにくいが、中央部の少し低い位置がカムイワッカ川。1936年の硫黄山の噴火の際は20万トンもの硫黄が流れ出し、カムイワッカ川を埋め尽くしたという

カムイワッカ川には滝が多く、管理所がある湯の滝への入口から順に「1の滝」「2の滝」「3の滝」と数字がつけられ、現在歩いて行けるのは「4の滝」までだ。この「4の滝」で38℃前後になり、ちょっとぬるいくらいの適温である。降雨後に水が増えると温度は下がるが、そもそも増水時は立ち入り禁止になる。そのために沢の中に入れるタイミングであれば、いくらか湯温は低くなっていたとしても、それなりの温泉気分は味わえるだろう。

更衣室や荷物置き場も設置されている入り口から、ゲートを越えてカムイワッカ川へと降りていく
更衣室や荷物置き場も設置されている入り口から、ゲートを越えてカムイワッカ川へと降りていく
入り口は緩やかな渓相。通常の水量であれば、登山や沢登りの経験がない人でも十分に歩ける
入り口は緩やかな渓相。通常の水量であれば、登山や沢登りの経験がない人でも十分に歩ける

入り口から「4の滝」までは400mほどの道のりで、標高差は80m程度だ。数字にするとそれほどの距離でも高低差でもないが、そのルートは一般の登山道以上に歩きにくい沢の中である。ゆっくりと風景を眺めるためにも往復には1時間は見ておくといい。

「1の滝」。入口から5分くらいの緩やかな滝だ。滝つぼは大きいが、水温は低くて入る気にはならない
「1の滝」。入口から5分くらいの緩やかな滝だ。滝つぼは大きいが、水温は低くて入る気にはならない

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高橋庄太郎

たかはし・しょうたろう
山岳/アウトドアライター。1970年宮城県仙台市生まれ。高校の山岳部で山歩きを始め、出版社勤務後の2年間の無職時代には国内外のアウトドア旅へ。その後フリーランスのライターとなり、ウェブメディアや雑誌を中心に執筆活動を続けている。近年はイベントやテレビへの出演も多く、アウトドアギアのプロデュースも手掛けている。著書に『テント泊登山の基本テクニック』(山と渓谷社)、『トレッキング実践学』(ADDIX)、共著に『“無人地帯”の遊び方』(グラフィック社)など多数。

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