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どうして新宿ゴールデン街で働き始めるとモテるのか? 元・素人童貞が語る「欲望の三角形」

「ファンですっていう女の子に山下くんが塩対応してるのが面白くて見にいってたの」

少し話が逸れてしまいましたが、3つめの話に移りましょう。3つ目は、「③モテていると言われるようになったから」です。モテてると言われるようになったからモテるようになったと言うと、同語反復のように聞こえますが、そうではありません。

『月に吠える』の店番に入ってまだ2か月くらいの頃。1人でよくお店に来てくれる女性がいました。その女性は来るたびに「1杯どうぞ」と奢ってくれたり、「ファミマの豚まんが美味しいよ」と教えてくれた次の週にファミマの豚まんを買ってきてくれたりして、めちゃくちゃいい人だなと思っていました。その女性と、偶然、ゴールデン街の別の店で飲んでいるときに出会ったときのことです。

「おっ、久しぶりですね。最近飲みに来ないですね」

と声をかけると、

「山下くんの日はね、ファンですっていう女の子に山下くんが塩対応してるのが面白くて見にいってたの。でもそういうのって、山下くんが飽きられたら終わりだからずっと続くわけではなくて、旬なときだけ見ることができるものだから、しばらく集中的に行ってたんだよね」

と言われました。話を聞いていくと、ゴールデン街でもう何年も飲んでいるゴールデン街常連の女性だったのです。 ゴールデン街は新規のお客さんと常連では全く異なる飲み方をしているのが恐ろしいと思いました。結局、その女性はそれからも「山下くんがモテてるところ見るの面白いから、飲みに行くね」と言ってくれ、周りの友達にもそのことを吹聴してくれた結果、ある日店番に入ると、僕がモテてる姿を冷やかしに見に行こうというゴールデン街常連の人たちだけでカウンターが埋まってしまっていた日がありました。そしてその日に満席でお店に入れなかった人が、次の週、店に入ってきて言ってきたのです。

「先週はずっと満席でお店に入れませんでした。山下さんがモテてるのって、本当なんですね」

実態としては冷やかしの人で席が埋まっているのにも関わらず、です。ここら辺まで来ると、モテてると言われるようになったからモテている、ということになってきます。

こうした状況に直面して思い出すのは、『トマスの公理』という社会学の理論です。「もし人がその状況を真実と決めれば、その状況は結果において真実である」。客観的かどうか関係のない状況の解釈が、人の行動を生み、結果的に真実になるということです。モテてると言われたからモテるようになった、というのは、そうした冷やかしによって成立したものなのでした。

     *

というわけで、なぜモテたのか、どのようにモテたのか、説明してみました。それはモテなかった頃にぼんやりと考えていた「モテればたくさんの人に囲まれて人生ウハウハ」な世界とは全く異なるものでした。そんなユートピアな状態というのは現実ではありえず、結局は好きな人に好かれるのが一番だということを身をもって理解することができたことが、一番の学びでした。

というわけで、金曜日の24時から朝まで、ゴールデン街G2通りにある『月に吠える』でまだしばらく働いているので、もし興味を持ってくれた方がいましたら、ぜひ飲みにきてください。

 次回連載第9回は6/7(水)公開予定です。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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