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どうして新宿ゴールデン街で働き始めるとモテるのか? 元・素人童貞が語る「欲望の三角形」

人間は他人の欲望を模倣する

では、なぜモテるようになったのか。3点ポイントを挙げて、ひとつひとつ説明していこうと思います。その3点とは、

①ゴールデン街で店番をしているから
②ゴールデン街における性愛に纏わる文章を書いているから
③モテていると言われるようになったから

です。

順番にいきましょう。まず「①ゴールデン街で店番をしているから」はすごく単純です。店番に入ると、ただそれだけでモテます。これは僕だけではなく、人間みな押しなべてそうだと思います。おそらく、カウンターの真ん中に1人の人が立っていてその周りを複数の人が囲っている、というカウンターの構造そのものが、人をモテさせるのだと思います。

ルネ・ジラールというフランス出身の文芸批評家がいます。ジラールは『欲望の現象学』という本の中で「欲望の三角形」という概念を提示しました。「欲望の三角形」という概念でジラールが捉えた人間の性質の一面は、人は欲望を自分の中から自発的に発生させるのではなく、他人の欲望を模倣することによって欲望を発生させる、というものです。図示すると以下のようになります。

例えば、夏目漱石の『こころ』で先生がお嬢さんに恋するのは、Kがお嬢さんに恋していると知らされたからです。先生はKの欲望を模倣することによって、お嬢さんに恋心を抱いたのです。

このような小説の話に限らなくても、たとえばブランド物がただブランド物であるというだけで価値があると人が思ってしまうのは、そのブランドが多くの人に欲望されていて、その欲望を模倣しているから、という側面があります。人は他者の欲望を模倣することによって、その対象を欲望するのです。

これを店番に当てはめると、以下のようになります。

店番をしていると、基本的には自分が働いてるから飲みに行こうと思ってくれる方が飲みに来てくれます。そうすると、「この人は会いに来たいと思われるほど魅力的な人だ」と、別に自分のことを好きでもないフラッと来た人まで欲望を模倣してしまうことがあるのです。だから店番をすると、ただそれだけで店番をしていない時よりは自動的にモテるようになるのだと思います。これはゴールデン街において『店番マジック』と言われている現象です。

「モテる」と聞くと、内側から溢れ出す人間としての魅力によってモテる、と考えてしまいがちですが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、どのような環境に身を置くのかが大事だということを、ゴールデン街の店番は教えてくれました。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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