よみタイ

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

雑用と飲み会の日々

介護のうしろから「がん」が来た! 第23回

 退院して一ヵ月もすると、それまで着けていた八つホックの術後専用ブラジャーはお役御免となった。その後は胸に入っているティッシュエキスパンダーが揺れ動くのを押さえるために、ワイヤーの入っていないブラトップのようなものを着けることになる。
「ユニクロで売っているので大丈夫ですよ」とN先生から言われたが、ついつい走ったり早足で歩いたりしてしまう粗忽そこつ者の私のことでもあり、外出用に揺れ防止効果の高いスポーツブラをゼビオで購入した。
 
 買い物や母の面会に通うのに、それを着けてがしがしと歩いてみたが、確かに揺れない。そろりそろり歩くのはどうにもストレスが溜まるので、それまではいつも右手で胸を押さえ大股で歩いていたが、さすがはスポーツメーカーの製品だけあって、手放しで歩いても揺れない。だがけっこう締め付け感があるうえ、圧迫されて痛い。揺れても痛いので、これは我慢するしかない。
 
 驚いたのは三、四回洗濯したら、アンダーバスト部分のゴムが伸びてしまったことだ。
 ネットに入れて洗濯機で洗っていたが、手洗いすべきだったのか。それとも炎天下の外干しが悪かったのか。
 スポーツ量販店のバーゲン価格でも五千円近い、某有名ブランドの製品なのだが……。
 同時期に買ったGUのブラトップの方は洗濯耐性に問題はなく、大股でがしがし歩く、程度の運動ならそちらで十分とわかり、以後、もっぱらそちらを着用している。(ユニクロの製品はストラップの長さが調節できないため、長身の私にはダメ)  

 退院後の生活は頻繁な通院に加え、入院中に溜まった雑事と仕事でけっこう慌ただしい。
 母が老健に入り無人となった実家の庭は玄関先まで丈高く草が茂り、ヒメジョオンの花盛りだ。
 百均で買った草刈り鎌と、以前、華道で使った古流ばさみを手に、取りあえず玄関や縁側の前の雑草だけ刈る。
 
 裏に回ってみると、山椒がつややかな緑色の実を付けていた。
 なぜ、今年だけこんなに実をつけたのか。そのままにしておくのももったいないので、さっそく近所に住む料理上手の友人に「山椒の実と葉っぱ、取り放題!」と連絡。
 
 ざるを持って現れた彼女は私が草刈り鎌を振り回している間に採取して、忙しい仕事の合間に、実山椒とじゃこの佃煮、葉っぱの佃煮などなどを作って分けてくれた。絶品だった。ジャングルと化した実家の庭だが、山椒の木だけは大事に守ろう、と心に誓う。
 ちなみにジャングルの下生えはドクダミ。みごとなグランドカバーになっている。こちらは適当に刈り、干してお茶にした。生の臭いからは想像もつかないが、うっすら緑色をした新茶はフルーティーで甘い香り、わずかながら甘味もあり、疲れた体にすっと染みわたる。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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