よみタイ

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

何のための再建手術?

介護のうしろから「がん」が来た! 第24回

 中高年飲み会の話題その二は、「病気と健康法」だ。だれもが当事者で、それぞれ一家言あるから座が盛り上がる。
 だが、そこには明確なヒエラルキーが存在する。
 何といっても重い病ほど偉い。
 がんの転移をあちこちに抱え、「明日からまた抗がん剤だぁ」とぼやきつつ、生ビールを追加注文し、元気に楽器を奏でるおっさんの前では、狭心症持ちも、脳梗塞後遺症持ちも、乳がん手術一ヵ月目も、うつサバイバーも、だれも大きな顔はできない。
 
 それにしても深刻な病気話になればなるほど自虐シモネタが炸裂するのはどういうわけか?
 乳がんの触診は若いイケメン医者に限る(この発言は私)、大腸内視鏡検査は毎年やっていると快感になる、子宮がんを切除したのち性欲が昂進し浮気したくなった、極めつけは前立腺がんの生検話で、その場にたまたま交じってしまった若者(といっても四十代女子)などは苦笑を浮かべたまま固まっていた。 
 
 乳がんであることを周囲に告げたとき、怪しい代替治療を勧められたりすることはなかったか、と今回、編集者に尋ねられたが、友人知人から貴重な情報や助言をたくさんいただいたが、あちらこちらの有名人が受けたと伝えられる怪しい治療については、笑い話や困った話として提供されただけで本気で勧める人は皆無だった。
 もともと某プルーンや水素水、御神水、気功等々を信奉するスピリチュアルな人々が私の友人関係にはいない。自虐シモネタは飛ばしても知性はそれなりにある。というより、お下劣とスピリチュアルとは、基本的に相性が悪く両立しないのだ。
 考えてみればオーラがどうした、魂の課題がどうこう、と大真面目にしゃべる女子が私の前に現れないこともなかったが、少ししゃべっているうちに、彼女らの澄んだ目に苛立ちとも憐れみともつかない表情が浮かび、それきり近付いてはこなかった。清濁併せ呑んでも下痢しない体質ゆえ、きっと全身からどす黒いオーラを発していたのだろう。いや、玉虫色のオーラか?

 

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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