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篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

院内リゾート 読書とオプショナルツアー

介護のうしろから「がん」が来た! 第17回

『鏡の背面』の著者校正が終わり、術後二日目から、小説新潮に掲載するシリーズ短編「肖像彫刻家」の第二稿に取りかかる。乳がんと診断された直後には、締め切りに間に合うのか危ぶまれたのだが、快適な入院環境のおかげで意外なほどはかどる。というより、テレビを見たり、本を読んだりしている間は、鎮痛剤を飲んでいても、右胸に不快な痛みと違和感が常にあるのだが、なぜかパソコンに向かって原稿を書いていると何も感じない。もともといくつものことを同時にこなすのが苦手なので、何かに集中すると他の刺激を脳みそがシャットアウトしてしまうらしい。便利なんだか危ないんだか……。
 病気の種類や病状にもよるのだろうが、原稿書きに限らず、人によっては編み物やパッチワークなんていうのも良いのだろうな、と思う。
 
 ベッド上の読書については、入院前夜に出席した会議で、隣に座っていた偉いおじさんから、「これおもしろいから君にあげるよ」と言われてもらった山本弘著『怪奇探偵リジー&クリスタル』が、おじさんの言うとおり、存外におもしろかった。昔懐かしい、あの夢枕獏さんが書いて一世を風靡ふうびしたノベルス版伝奇小説のようなものかと思ったらかなりテイストが違う。第二次大戦前夜、LAに事務所を構える、金髪美女探偵リジーと、助手の透明少女クリスタルが事件を解決、と言えば普通のB級ノベルを想像するかもしれないが、第一話こそそれっぽいものの、第二話以降は、前世紀の特撮トリビア、錬金術、タイムトラベラーに異次元生物と、オタク感満載だ。特に主人公リジーの素性が語られるホムンクルスの話は圧巻。審議会、評議会に出てくる偉いおじさんが読んでる本なんか、どうせ司馬遼太郎か塩野七生程度、と見くびっていたら、してやられた。ありがとう、おじさん。そのままの勢いで同じ著者の『神は沈黙せず』をamazonで注文する。

 

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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