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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」
めでたく30歳を過ぎた鈴木涼美がおくる「アラサー女性論」。30代になった女が失うものは? 得るものは? なにかが変わるのか? 時代を鋭く読み取る元セクシー女優にして社会学者の気鋭のコラム。

男は「別名で保存」、女は「上書き保存」問題〜彼氏は過去を愛しすぎてる

高校1年生の秋に、109の2階の屋外にある喫煙場所で日出女子(当時)に通う友人と話していたら、その友人の顔見知りらしい女の子が久しぶりーとか言いながら寄ってきて、初対面の私に、「ねえ、それってメイガクの制服だよね?」と話しかけてきた。

SNSなんてなかった頃の若者の連絡先交換事情は結構なものだった

適当にそうだよーとかなんとか私が答えると、「ねぇねぇりゅうくんってわかる? ●山りゅうくん!」と食い気味に聞かれ、隣のクラスのよく知った名前にウンウンわかる的な反応をしたところ、すかさず彼女は、自分は去年までりゅうくんと同じ中学に通っていたこと、仲が良かったこと、りゅうくんのお母さんのこともよく知っていること、家はそんなに近くないけど自分の家にも彼がきたことがあること、中学では二年の時だけ同じクラスだったことなど、私には特に必要のない大量な情報を無理やり押し付けられた挙句、「携帯変えて連絡したらなんか連絡がつかなくなってたから、良かったらりゅうくんの番号教えてくれない?」と頼まれた。 

スマホネイティブの若者は知らないだろうし、知っておくべき歴史というほどのことでもないので知らなくていいのだけど、ようやくPHSと携帯電話が混在しつつも高校生にまで普及し始めた若者ケータイ文化の黎明期だった当時は、携帯電話の番号やメアドといったものは結構しょっちゅう変わるものであり、ちょっと前まで連絡を取り合っていた友人の番号やメアドがわからなくなる、ということもよくあった。

まず、キャリアを変えれば番号もアドレスも変わるし、アドレス帳の移行ができないので手打ちでまた入れ直さなきゃ行けないし、SNSなんてないから、自分の新しい連絡先を逐一友人たちにメールをして知らせなきゃいけない。当然、「こいつには別に急いで教えなくてもいいや」と認識した相手にはメールを送らないし、「この番号はもういらない」と認識した人はアドレス帳を手打ちする時点で消しちゃうし、そもそも違うキャリア同士で送れるEメール機能がついたのも途中からであって、それまではPHSからドコモの携帯にメールを送る場合はセンターに電話してベル打ちの要領で送らなくてはいけないから、「まぁいいや今度会った時にでも新しい番号教えよう」となっていたし、赤外線で番号やメルアドを交換できるようになったのだって大人になってからだし。

というわけで、私はリカちゃんとかいう名前のそのりゅうくんの元同級生のその申し出に深い意味があるとは思わなかったのだけど、あいにく私自身はそのりゅうくんの番号なんて知らなかったし、わざわざそこで知っていそうな友人に電話して彼の番号を聞いてあげるというほど親切でもなかったので、その代わりにリカちゃんと私が番号交換をして、りゅうくんに学校で会ったらその番号をりゅうくんに教えて彼から連絡してもらえばいいのでは、と提案。
リカちゃんも、「じゃあ、そうするー!今度アソボー」と同意し、女子高生らしい意味のわからない経緯で友達になった。

りゅうくんは当時、私がほぼ毎日学校から品川まで一緒に歩いて帰っていた友人のカオリと付き合っていたので、私は翌日学校でカオリを見つけ出し、昨日りゅうくんの中学時代の友達とたまたま会って、番号を聞かれたんだよね、という話をしていたら、ちょうどそこにりゅうくんが登場して、「え、誰々?」というような話になり、リカちゃん、と私が教えると、それまで男の友達を想像していたカオリの顔が曇り、りゅうくんも微妙な顔つきになって、「え、誰なの、それ? 可愛かった?」とかなんとか関係のない私にまで攻撃的な口調でカオリが詰め寄ってきたので、私は「いやー別に顔は普通だったような…頼まれたから言っただけー。ちょっと用事あるからまた後でねー」と言って退散した。

モトカノ問題はいつの時代もカップルの喧嘩の原因となる

当然その後も、りゅう×カオリのカップルは授業をサボってまでトゲトゲした問答を続け、最終的にはりゅうくんが「リカは元カノ」と認めたことによって理不尽で攻撃的な女子高生であるカオリは激昂し、次の休み時間に再び私のところへやってきて、絶対にりゅうにその番号とか教えないで、と念を押しつつ、「で、どんな女なの? てゆーかなんで今さら番号知りたいの?」とさらに詰め寄ってきて、最終的には今度リカと会うときがあれば私もついていく、とよくわからないことを言いだし、写真が見たいからその日出女子の友達にプリクラとかもらってきて、とも言い、とりあえずその日は退散してくれた。

で、その日の放課後、私が違うクラスの友人の机で化粧をして友人の部活が終わるのを待っていたら、今度はりゅうくんが「カオリに止められてるかもしれないけど、大事な用事とかもあるかもしれないから、とりあえずリカの番号教えて」と迫ってきて、いやーでもカオリが、と苦しい立場の私がモジモジしていると、じゃあとりあえず今リカちゃんに電話してくれ、ということになって、私は渋々昨日知り合ったばかりの色白でいかにも男にモテそうなリカちゃんに電話をかけ、りゅうくんは半ば強引にその電話を奪ってリカちゃんに優しい声で、久々、とか言って自分の番号を伝えていた。
結果的には私は、りゅうくんとリカちゃんが連絡をとる、というカオリが最も恐れていた事態を引き出してしまったのだけど、この話は約20年経った未だにカオリに言っていない。ごめん。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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