2022.1.22
働けど働けど、女フリーランスの不安は増すばかり
セコムがわりの番犬と共にご近所付き合いがスタート
続いては、目の前にある事務所です。個人で経営している方の作業場のような場所で、住まいは別にあるものの、泊まり込みで作業することもあると聞いていました。平屋の作業場の横には畑もあります。
玄関には大きな秋田犬。恐らく、17:00にゆうやけこやけのメロディーと共に雄叫びをあげているのはこの子です。警戒しながら、恐る恐る近づきましたが、案の定今にも飛び掛からんばかりに右へ左へ鎖を引っ張りながら、ワンワンと吠えたてます。ひぃぃ。それにしても、セコムよりも早い。隣家に番犬がいるのは心強くもあります。後から聞いた話によると、大型犬を飼っている家が多いのは、鹿やイノシシ対策だそうです。
鎖に繋がれた犬の行動範囲を回り込んでチャイムを押すと、中から60代と思しき男性が現れました。
既に不動産屋から話が伝わっていたため、話もスムーズです。もともとエンジニアで、今は独立して、ひとりで楽しく様々な工業機械を作っているとのこと。
「ここなら、いくらでも大きな音が出せるからいいですよ。うちもたまにカラオケ大会やったり、庭でバーベキューやったりして、結構人が来るんです」と、音楽を聴く私には嬉しいセリフも。住まいは麓の町にあるので自治会は異なりましたが、お互いの畑は真隣にあるので、顔を合わせることもよくありそうです。
今後、宜しくお願いしますと伝え、外に出るとまたもや秋田犬から吠声を浴びせられます。
「レオっていうんですよ。顔のまわりの毛が多くてライオンみたいでしょう?」
私と飼い主が知り合いだとわかると、レオは急に態度を激変させて、今度はじゃれつくように飛び掛かってきました。遊んで遊んで遊んで遊んで、いいから遊んで、遊んでよー! と、お腹を見せんばかりに私の周りを飛び跳ねます。さっきまでの怒りに満ちた表情はなんだったんだ。それでいいのか、番犬よ。私はまだ信用ならんぞ。
家に戻ったものの、Wi-Fiの契約を忘れていたので、このままでは仕事になりません。デザリングで、開通日までどうにかこうにかやり過ごすしかなさそうです。
ところが、問い合わせてみると、かなり混雑していて開通日は早くても2か月後。そもそもリモートワークなんて、Wi-Fiが命綱なのに、相変わらずアホすぎる。
こんな場所にあるわけないよねと思いつつ、コワーキングスペース的なものがないか調べてみると、奇跡的に車で5分ほどの場所に存在しました。機能しているかどうかはいざ知らず、最悪ここに行けば何とかなりそうです。それにしても、こんな山間になんでまた。行っても、私しかいないような予感がするし、営業中しか仕事ができませんが、それでも十分助かります。
とはいえ、この手のものは苦手です。以前、中目黒のシェアオフィスに、友人とデスクを借りていた時期がありますが、あっという間に解消してしまいました。そこで働く人達同士のコミュニケーションが旨味なのだと思いますが、そもそも私は借りていた半年間で、そこで仕事をしたのは2回だけで、結局すべてを家で済ませてしまうのでした。強制力が働かないと動かないくせに、私はどこまでも自由で、面倒臭がりなのでした。
ふと、Wi-Fiが飛んでいることに気づきました。先入観で、あるはずはないと思い込んでいましたが、ひとつだけ表示されていて、そのひとつは目の前の事務所以外にはあり得ないのでした。
しばらく考えて、戻ってきた足で、再び隣家を訪れることにしました。レオが勘違いして、やっと遊ぶ気になったのかと、さっきと同じ動きを繰り返します。
舞い戻ってきた私を何事かと迎えてくれた家主さんに事情を説明し、図々しくもパスワードを教えてくれないかと打診したら、すんなり教えてくれました。2日目にして、ご近所さんの有り難みを感じます。
また外に出ると、甘噛みしたくてたまらないレオが待ち構えていて、右往左往しては飛びつこうとしてきます。顔のまわりをわしゃわしゃと揉むと、気持ちよさそうに一瞬だけ落ち着いて、またすぐにさらなる高みを求めてきます。
もう終わりと家に戻ろうとすると、どこで覚えたのか切なさの極みのような顔で私を見つめてきました。キュインキュインと、初めて聞くレオの鳴き声が背中に響きます。番犬よ、私を信用するなと言っただろう。