よみタイ

藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」
バツイチ、シングル子なし、女40代、フリーランス。
編集者、ライターとして、公私ともに忙しく過ごしてきた。
それは楽しく刺激の多い日々……充実した毎日だと思う。
しかし。
このまま隣室との交流も薄い都会のマンションで、
これから私はどう生きるのか、そして、どう死ぬのか。
今の自分に必要なのは、地域コミュニティなのではないか……。
東京生まれ東京育ちが地方移住を思い立ち、鹿児島へ。
女の後半人生を掘り下げる、移住体験実録進行エッセイ。

鹿児島―東京3往復。かさむ交通費、されど豊か

東京に「戻る」のではなく「行く」という初体験

 鹿児島に来て、まだ2週間も経っていないのに、早くも東京に舞い戻る日がやってきました。それどころか、この月は既に3往復することが決定しています。鹿児島で暮らしていても、受けているのは東京の仕事。リモートワークが進んだとて、実際に現場に行かなければならないことはたくさんあります。
 それに、さすがに3往復することはないにしろ、物件探しで鹿児島との往復にはすっかり慣れていました。鹿児島空港内の飲食店は、いつの間にかコンプリートしていたし、格安航空券を見つける技も身に着けています。
 基本的には羽田着のLCC、早めに日程がわかっているときはJAL、買い物はすべてJALカードと決めて交通費をできるだけ削るようにしていました。
 仕事だとしても、交通費は基本的には実費。自分の代わりなど、いくらでもいるとわかっているからこそ、わがままは言えません。1ページ連載の仕事の依頼が来ましたが、撮影を伴う仕事で交通費だけで赤字になってしまいます。久しぶりに連絡をくれた媒体だったので、普段だったら受けるところを泣く泣く断りました。

 トランクを持って玄関に出て、畑から見るいつもの景色を眺めます。目を閉じれば、葉擦れの音と鳥の鳴き声だけ。目を開ければ遠くまで広がる畑と牧草地。鹿児島に来てから、何も考えずにぼーっとすることができるようになってきました。
 以前、ヨガに通っていたときに、瞑想の方法を習いましたが、まるで習得することができませんでした。
 『考えてしまったことは横に置いて、無になるのだ……ん? いや、無になれって考えちゃってんじゃん。ん? 無になれって考えちゃってんじゃんって考えちゃってんじゃん! ていうか、お腹すいたな。いやいやいや、違うだろ。無! …………無って何? いや、無って何って、また考えちゃってるよ。あ、この葛藤を客観視しろって言ってたな。いや、客観視した自分もめっちゃ喋る。てか、お腹すいた。いやいやいや、違うだろー!』
 そんな経験もあって、無になることは想像以上に難しいと知りましたが、この景色があると、いとも容易く無に陥ることができるような気がします。

 自宅から空港まで車で25分、そこから飛行機で2時間。機内で仕事や読書をして、うつらうつらしていたら、そんな時間はあっという間です。目を覚ませば窓の外は大都会。相変わらずのビル、ビル、ビル。
 移住して日も浅いので、何ならまだ東京のほうが落ち着く気がします。ただ、普段の旅行と違うのは、「東京に帰ってきた」気持ちにならなかったこと。「東京にやってきた」という初めての気持ちが芽生えていました。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

齋藤弦

1978年生まれ、京都府出身。フォトグラファー。成安造形大学卒業後、フォトグラファーとして関西を中心に活動する。2006年にロンドンに渡り、帰国後、東京をベースとして活動を開始。広告や雑誌を中心に、モードからカルチャーまで幅広く活躍中。数々の著名アーティストのポートレートも手掛け、業界から高い信頼を寄せられている。

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