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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」
バツイチ、シングル子なし、女40代、フリーランス。
編集者、ライターとして、公私ともに忙しく過ごしてきた。
それは楽しく刺激の多い日々……充実した毎日だと思う。
しかし。
このまま隣室との交流も薄い都会のマンションで、
これから私はどう生きるのか、そして、どう死ぬのか。
今の自分に必要なのは、地域コミュニティなのではないか……。
東京生まれ東京育ちが地方移住を思い立ち、地縁のない土地へ。
女の後半人生を掘り下げる移住体験実録進行エッセイ。

世田谷ではなく鹿児島で、サザエさんの家探し

人はなぜ、噴火を繰り返す桜島の沿道に住むのか

 私が生まれた町は、荒川のほど近くにある“ゼロメートル地帯”と呼ばれる場所です。小学校の授業で自分の家が海面よりも低い場所にあると知って、しばらくざわざわした気持ちを抱えました。妙に高い堤防を眺めては、そこを越えてやってくる泥まじりの鉄砲水に飲まれる自分を想像しては震えました。

 風のように移住先候補として現れた鹿児島は、面積の約6割が噴火のときの火砕流や火山灰が堆積したシラス台地で、平坦地が極めて少ない場所です。
 半ば遊び半分で霧島市の物件を眺めるようになったものの、どこもかしこも傾斜地だらけ。土砂崩れの映像が頭をよぎりました。
 また、鹿児島の親戚に話を聞くと、場所によっては霧島市でも火山灰の影響を受けるとのこと。桜島はしょっちゅう噴火していて、私たちが「桜島が噴火した!」と騒いでいるとき、現地では「だから何?」といった心境だそう。洗濯物は外に干せないし、灰と雨が混じった日は最悪で、靴も車も汚れに汚れる。私はまだその経験をしたことがないし、“よくあること”なら妥協していいポイントのようにも思えません。

 桜島の周りはぐるりと一周道路が走っていて、その途中に黒神埋没鳥居という火山灰に埋もれて頭しか見えない鳥居があります。大正時代に起こった桜島の大爆発は、もともとは島だった桜島と大隅半島を陸続きにしてしまうほどの威力で、神社のあった黒神村の家々もすべてが飲み込まれました。
 そんな過去の事実を証明する鳥居が間近にあるにも関わらず、その土地を愛して根差し、その道沿いで暮らし続ける人達もいます。その道路を初めて一周したとき、しみじみ、人間という生き物はまったく合理的な生き物ではないんだなあと実感させられました。そして、だからこそ面白いのだと思います。さすがに桜島沿いに住もうとは思わないけれど、みんながみんな、タワマンに住みたいと思う世界のほうが狂気だわ。

 実は、東京との距離の問題を取っ払って移住先を考え始めたとき、最初に目に浮かんだのは青森の風景でした。十和田湖周辺の温泉郷に惚れ込んで、ひと月に2回行ったこともあるくらい、一時期ハマりにハマっていました。
 夏は活力漲る木々の青さに、秋は極彩色の紅葉に、冬は雪を抱いた静けさに、それぞれ圧倒されました。そして、また芽吹きの春がやって来る。私は毎回違う場所に行くのが好きで、行ったことがない場所を旅先に選ぶのですが、その周辺は四季折々の存在が立っていて、何度も再訪してしまうのでした。
 
 でも、だからこそ、儚いほどの夏の短さや、降雪量の凄まじさを知っています。へなちょこが移住したところで、へなちょこはへなちょこ。雪かきに音を上げる自分の姿が目に浮かびます。変に夢を見てやる気を出さない。自分に過度な期待はしない。風光明媚な青森を、早々と候補から消しました。
 寝られない日が続くときも、頑張っている感覚があまりないのは、結局は好きでやっているからなのだと思います。自分の意に反してやらなければならないとき、自分は頑張っているという感覚に陥るのではないか。だから、私は頑張らない。今まで通り、のほほんと。頑張らざるを得なかったことも多々あるけれど、根底は大企業を辞めたときから一貫してきたように思います。自分に無理なく、楽しいことだけ。
 合理的な生き物ではない私が、私なりの合理を形成していくことが大事なんだと、自分に言い聞かせるように具体的な移住先を探すことにしました。
 旅と暮らしはまったくの別物だ。地に足をつけろ、藤原。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

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