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ブームにしばしのお別れを。電気風呂にミニプール、サウナだけじゃない銭湯の楽しみ方

 ときは流れ、私は今、あの頃のような自暴自棄からではなく、健康のために日々電気風呂と格闘している。ミュータントにはなれなかったけど人間として生きていられる現在の生活に小さな幸せを感じている。
 プールだってそうだ。子供の頃、それほど仲良くもないクラスメイトと一緒にプールに入るのが嫌で嫌で仕方なかった。自分の裸をそいつらに見られることも、そいつらの裸を見ることも嫌で、プールで泳ぎながらよく泣いていた。
 今では、一糸まとわぬ姿を見せびらかすように日がなプールに浮かんでる次第であります。

「整った整った~」と相変わらずバカ騒ぎをしている若者たち、ちんちん丸出しでプールに浮かぶ私、修行僧のように電気風呂の中で座禅を組んだまましばらく動かないお爺さん、背中に綺麗な桜が咲いているワケアリのおじさん。多種多様な人間模様を垣間見れることも銭湯の魅力のひとつである。
 自堕落な生活を送り、いつ死んでもおかしくない健康状態だった数年前の私は、どうせ死ぬのなら、アパートの一室で孤独死をするより銭湯でぶっ倒れて死ぬ方が幸せだなんて、迷惑極まりないことを考えながら銭湯に通っていた。
 今は違う。私は少しでも長生きをしたい。できるだけ健康でいたい。銭湯にサウナという素晴らしい文化がこれからどう変わっていくのかをこの目で見ていたい。
 今日もちんちん丸出しでプールに浮かびながら、私はそんなことをいい加減に考えている。もちろん電気風呂にはまだ入れない。

 では、いつか、どこかの銭湯でまたお会いしましょう。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

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当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は8月13日(日)配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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