よみタイ

おじさんの健康のバロメーター、それはドラッグストアのポイントカードなのです

 歯ブラシを新調しようと歯ブラシコーナーに向かうと、あまりの品数の多さで、これぞという1本を決めるのに20分もかかってしまった。なんて素敵な時間の無駄遣いなんだろう。
 歯ブラシの次は入浴剤、そして美容品コーナーも覗いてみようと思っているのに。これじゃ時間がいくらあっても足りない。このワクワクが次から次へとやってくる感じはアレだ。ラウンドワンに遊びに行ったときのワクワクと全く同じじゃないか。
 そうか、ドラッグストアってラウンドワンにも匹敵する一大アミューズメントパークだったんだな。

 東京だけに飽き足らず、地方に仕事に行った際は、その土地にしかないドラッグストアを観光がてらに訪れるようになった。ある意味、聖地巡礼というやつか。

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 ドラッグストアに足繁く通うようになってからというもの、あれだけ苦言を呈していたポイントサービスも積極的に利用している。スマホの中には「グッドライフ」と名付けられたグループの中に、10店舗ほどのポイントアプリがインストールされており、手帖には手帳には、何曜日はどの店がポイント10倍デーなどといったイベント情報がぎっしり書き込まれている。手帳にこんなことを書き込むなんて、かつてギャンブルに明け暮れていた頃、パチンコ屋の新装開店情報をせっせとメモしていたとき以来である。
 このポイントというのが、セール日をうまく使えば、思った以上に貯まるもんだから驚いた。2、3ヶ月で500円分ぐらい貯まることもある。
 日々貯まっていくポイントをチェックするのが、最近の寝る前の密かな楽しみになっている。そのポイント分、自分が美容と健康に気を遣って生きてきたんだという証のようにも思えて少し誇らしくなるからだ。ポイントカードのポイント数こそが、私だけの健康のバロメータともいえるのだ。
 平均体重とか肌年齢とか、知らない誰かに決められた不確かな数字なんかには左右されず、私はポイントカードに貯まったポイントだけを信じて生きていく。

「ポイントを貯めるために生きるな。生きてさえいればポイントは貯まるのだから」

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は7月9日(日)配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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