よみタイ

スランプに陥った美容大好きおじさん、ムダ毛をごっそり抜いて立ち上がれ!

 胸、腹、すね、太ももとツルピカになった肌を愛しく撫でているうちに、禁断の領域、すなわちアンダーヘアにも手を出してみたくなった。酔った勢いに任せての愚行だったり、エッチなプレイの一環として何回か剃毛をしたことはあるが、まさか美容のためにアンダーヘアの処理をするときがくるなんて、まさに「人生、一寸先はハプニング」である。
 アントニオ猪木よろしく「迷わず行けよ、行けばわかるさ、バカヤロ~!」の掛け声と共に男性器のまわり、肛門の辺りに脱毛クリームをえいやえいやと塗りたくる。ところがこれがうまくいかない。男性器のまわりはある程度綺麗になったのだが、目視がしにくい肛門まわりの部分はかなりの取りこぼしがある。ふむ、どうしたものか。

「そろそろ見てらんないから、手伝ってあげようか?」

 あれやこれやと体勢を変えたり、手鏡や三面鏡を使ったりとケツ毛の処理に四苦八苦している私を見かねて、同棲中の彼女が声をかけてくる。
「え……いや、もう少し自分でやるわ」
「あ、そう、じゃあ必要になったら声かけてね」
「……はい」
 そのあとも悪戦苦闘の末、ブレイクダンスのように全裸で床をくるくると回ったり、シルク・ドゥ・ソレイユを彷彿とさせるポーズに挑戦したりするなどした挙句、私は彼女に救いを求めた。

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「じゃ、四つん這いになってお尻こっち向けて。ほら、自分で思いっきりお尻広げて!」

 ああ、懐かしい。ひとつ屋根の下で一緒に暮らしていると徐々に失われてしまう「恥ずかしい」という感情が戻ってきた。もうお互いの裸を見てもなんとも思わない関係だったはずなのに、こうしてケツ毛の処理をお願いしているだけで顔から火が出るほど恥ずかしい。二人の将来をより良いものにしていくためにも、二人の生活に程よい刺激を与えるためにも、こういう恥ずかしいことをたくさん見つけていくのが必要なんじゃないか。恥ずかしいことを共有し合えることこそ〝愛〟なのだ。セックスよりも恥ずかしくて気持ち良い事を一緒に見つけていこう。〝恥〟と〝愛〟は常にイコールなのだ。

馬鹿になれ
とことん馬鹿になれ
恥をかけ
とことん恥をかけ
かいてかいて恥かいて
裸になったら見えてくる
本当の自分が見えてくる
本当の自分も笑ってた
それくらい
馬鹿になれ

 愛する女に肛門まわりをいじくられながら、頭の中でアントニオ猪木の詩を反芻する。そうか、私が崇拝する猪木さんの教えはやはり間違っちゃいなかった。私は脱毛を通じて真実の愛を知った。

 という具合に脱毛に関しては一通り試してみたので、今度は逆に毛を増やしてみようと思い立ち、髪の毛を伸ばしてみることに。長い間伸ばしていないので、いったいどんな状態になるのか想像もつかない。しかし、増やしたり減らしたりでここまで一喜一憂できるのだから、「体毛」というものは本当に面白い玩具だなぁと心から思う。

 一か月半後、生まれたての赤ちゃんのようにスカスカの私の頭を見て、「あら、可愛いでちゅね~ボクは何歳なの?」と恋人がバカにして笑う。顔を真っ赤にして私は「……よんじゅうにちゃい」と答える。
 よかった、また二人だけの恥ずかしい秘密がひとつ見つかった。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は5月14日(日)配信予定です。お楽しみに!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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