よみタイ

スランプに陥った美容大好きおじさん、ムダ毛をごっそり抜いて立ち上がれ!

 さて、髪の毛はそれでいいとしても、体毛の処理は美容の面でもエチケットの面でも大切な問題である。鼻毛に髭と他人の目につく箇所には最低限の気を遣ってはいるが、服で隠すことのできる部分に関してはそのまま放置しているのが現状だ。そこまで剛毛というわけではないが、胸、腋、腹、背中、太ももにアンダーヘアと全身をくまなく覆っている体毛は体型もあいまってクマそのもの。これをどうにかできないものか。

 そう思ったのには理由がある。最近の私の美容活動は少しマンネリ気味、いやスランプに陥っているのだ。
 四十歳になるまで何のケアもろくにしてこなかったこともあり、化粧水、パック、ルイボスティー、フットケアなど、何かに手を出すたびに、見違えるような効果を実感してきた。それもここ最近はすっかりなりを潜めている。安定期に入ったといえば言葉はいいが、今まで順調に来た美容へのモチベーションが大きく低下しているのを日々感じている。そのストレスからか炭酸飲料やカップ麺への欲望も高まり、いつ暴飲暴食をするかもわからない。焦りから自分の身の丈に合っていない高級な化粧品に手を出しかねないところまで私の心は追い詰められている。

 だからこそ今は目に見える結果が欲しい。そこで目をつけたのが体毛の処理である。元々あるものを無くすわけだから、その効果をシンプルに実感できるはずだ。これも何かの巡り合わせ、長年放置していた体毛を一気に処理してしまおう。

 エステやクリニックに通うのは気恥ずかしいし、最初からお金はかけたくない。まずは自分でできることから始めてみようと、市販のT字型カミソリでムダ毛処理をしてみたが、これが最悪だった。元々敏感肌ということもあって、カミソリ負けをしてあちこちが真っ赤っ赤になってしまった。
 そこで登場するのが脱毛クリームである。種類は沢山あるが1,000~5,000円で購入出来てお財布にも優しい。使い方も簡単で、気になる場所に脱毛クリームを薄く塗り、五分程度放置した後、付属品のスポンジでクリームを取り除く。すね毛で試してみたところ、あれだけ生い茂っていたすね毛が面白いように取れる取れる。まるで消しゴムのカスのように取れる取れる。最後にぬるめのお湯で綺麗に洗い流すとツルピカの肌が目の前に現れる。そうそう、これだ。こういうわかりやすい結果を私は欲していたのだ。
 ただし、脱毛クリームは「毛を抜く」のではなく「毛を溶かしている」だけなので、毛根から根こそぎ処理をするのであれば、ブラジリアンワックスのような脱毛ワックスを使うか、もしくはサロンにて永久脱毛を試みるしかないらしい。だが、今の私はこれぐらいの成果で充分満足だ。いつ無くすのかではなく、いつでも無くすことができるという安心感の方が生きていく上では大切なのだ。

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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