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落とせ! 何を? 角質を! かかとガッサガサおじさん、人生初のフットケアに挑戦

爪切男、四十にして惑う?
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。

前回は白湯を楽しむ朝活で感じたお話でした。
今回は、角質ケア。化粧水などでツルツルになった顔の肌だけでなく、人からは見えづらいフットケアに挑んだ理由とは?

(イラスト/山田参助)

第18回 キミを愛してる。足の裏まで愛してる。もう履かない人生は終わりにしよう。

「お肌ツルツルになって浮かれてるみたいだけど……自分の足の裏見てみ? ガッサガサのボッロボロのクッサクサだよ? 人の目につかない場所もちゃんとお手入れしなさいよ」

 同棲中の恋人から投げつけられる手厳しいお言葉。彼女がそう言いたくなる気持ちも少しはわかる。
 出会う人出会う人に「お肌スベスベじゃん!」「めっちゃ痩せてイイ感じになったね!」なんて褒められることも増えてきた近頃、私は明らかに調子に乗っている。

 赤いカーディガンを上手に着こなそうとしてみたり、用もないのにカルディに足を運んでみたり、喫茶店で「珈琲にはミルクも砂糖もいりません」と食い気味に言ってみたり、ちょっと値が張るカラフルな不織布マスクを愛用していたり、スマホのアラーム音を「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」というジャズの名曲に変えてみたりと、あらゆる面で調子に乗っている。
 実は最近、恋人からの独り立ちも考えていた。美容と健康に関して、今までさまざまなアドバイスをしてもらってきたが、私はもう一人でもやっていける。こうして目に見える結果を出し続けているのだ。ちょっとは私の好き勝手にやらせて欲しい。

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 ただ、彼女のご指摘通り、私の足は汚い。いつからこんなに汚かったのかは覚えていないが、気付いたときにはもう手遅れ。乾燥した皮膚の表面はガサガサのゴツゴツ。幸いにもジュクジュク水虫には悩まされていないが、足の裏のそこかしこにひび割れができ、ひどいときには出血を伴うこともある。生きていながらにしてゾンビの皮膚かのようにグロテスク。かかとの部分に溜まった角質はこんもりと盛り上がり、さながらミニクロワッサンのようだ。「ミニクロワッサンのようだ」なんて可愛いたとえをするようになったのも、私が調子に乗っている証拠であろう。

 確かに何らかの処置は必要だ。でもそれは今ではない。めったに人に見せない足の裏なんてしばらく放っておけばいい。白湯にルイボスティーに養命酒、私の健康生活を支える〝飲み物三銃士〟の力で、そのうち自然に治る可能性だってあるじゃないか。彼女に何を言われようが今は無視あるのみだ。

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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