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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」

20年ぶりに新人同士の激戦! 兵庫県知事選挙は5人の候補をメディアがしっかり伝えていた。

この5人を多くのメディアがしっかり取り上げていた。それだけに低い投票率は残念だ。(撮影/畠山理仁)
この5人を多くのメディアがしっかり取り上げていた。それだけに低い投票率は残念だ。(撮影/畠山理仁)

中川候補の得票率は5.6%から7.7%にアップ!

 私は今回も「よそ者」として選挙を見ている。有権者よりも少し距離を置き、冷静に選挙を見ているつもりだ。そんな私から見て、今回の兵庫県知事選挙には大きな変化があった。それは現地での報道だ。

 私は現地入りして知事選の報道を見るたびに「おっ!」と驚かされた。それは5人の候補者がメディアに露出する機会が、従来では考えられないほど確保されていたからだ。
 これまで日本のメディアでは、「主要候補」と「その他の候補」の間に明らかな露出機会の差をつけていた。ところが今回は5人の候補にしっかりと紙面や時間が割かれていた。
 私がこれまで取材してきた政党や組織の支援を受けない候補者たちは、選挙のたびに「報道が平等ではない」という不満をよく口にしていた。しかし、今回はどの候補者からも「メディアが取り上げてくれない」という不満を聞かなかった。これはある意味では当たり前のことだが、相当珍しいことも事実だ。

 今回、得票では最下位となってしまった服部修候補も「こんなにしっかり報道してくれてビックリしている。誰が勝つかわからないからじゃないですか。それだけ県民の怒りが大きくて、票の行方が読めないんだと思います」と語っていた。
 やはり、報道の量は得票数にも影響を与える。メディアが最初から候補者に「差」をつけなければ、政党や組織の支援を受けない候補者にも「戦える」可能性が出てくる。有権者は、よりフラットな視線で候補者を見る。
 そのことを強く感じたのは、中川暢三候補の得票数を見たからだ。
 中川候補は完全無党派の候補だが、自治体によっては共産党の推薦を受けた金田峰生候補を上回っていた。しかも、今回の得票数は14万575票。4年前の知事選時から3万7千票以上上積みし、得票率も5.6%から7.7%に伸ばしていた。

 私は2002年の長野県知事選挙から中川候補を取材してきたが、当時のメディアは冷たかった。その結果、長野県知事選挙での得票は15,255票、得票率は1.2%にとどまった。
 その後、中川候補は自分に縁のある全国各地の選挙に出たため、一部では「選挙好き」と呼ばれるようになった。しかし、本人は「選挙好きではない。選挙に出ることは苦業です」と明確に否定している。それなのに、なぜ選挙に出るのだろうか。

「有権者が積極的に政治に参加しなければ民主主義は成り立ちません。私はそのことを有権者に知ってもらいたい。その使命感で数々の選挙に出ているんです」

 投票に行ったら1万円相当の「投票ポイント」を進呈する全国初の条例を制定したい、というのも中川候補が以前から訴えてきたユニークな政策だ。
 今回も完全無党派での立候補だったが、街頭演説の現場を手伝うボランティアが10人以上いた。それぞれが幟旗を持ち、街角に「中川陣営」を展開した。選挙を重ねるたびに支援者がどんどん増えてきたのだという。地道な活動は必ず報われる。
 それでも決して組織型の選挙にしないのが中川候補の特徴だ。参加者の裾野を広げるため、独自のアイデアや支援者の厚意はどんどん取り入れている。
 選挙戦最終日の夕方に元町の百貨店前で行われた街頭演説を見に行くと、そこにはマイクを持って歌う中川候補の姿があった。午前中に三宮駅前で見た時は演説だけだったが、なんと、演説の合間に支援者が作ってくれたオリジナルソングを歌っていたのだ。

「♪さあみんなで考えよう〜 子どもたちの未来を〜♪」

 イメージソングの曲名は『ぼくらの街』。それをタスキをつけた候補者が大音量で歌う。驚くべきことに、オリジナルソングはもう一曲用意されていた。中川候補の政策を歌詞に織り込んだ『ちょちょちょの歌』だ。
 中川候補がたった一人、伴奏なしのアカペラで披露すると、買い物に来ていた通行人が足を止めた。その人は遠巻きに眺めるだけだったが、兵庫県知事選挙が翌日にあることを知らせる効果は十分にあったはずだ。

オリジナルソングを歌う中川候補。ご本人は「選挙は苦業」と言ってきたが、周りで見ていると、とても楽しそうな雰囲気が伝わってくる。子どもを連れた若いママさんたちも選挙を手伝っていた。(撮影/畠山理仁)
オリジナルソングを歌う中川候補。ご本人は「選挙は苦業」と言ってきたが、周りで見ていると、とても楽しそうな雰囲気が伝わってくる。子どもを連れた若いママさんたちも選挙を手伝っていた。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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