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踊らない! 歌わない! 戸田市議会議員選挙で、スーパークレイジー君はなぜ当選できたのか?

子どもたちに追いかけ回されるような候補者は、なかなかいない

 選挙で候補者を当選させるのは「人」の力だ。もちろん候補者本人の人柄もある。選挙を手伝うスタッフの力もある。なかでもスーパークレイジー君が他の候補者と大きく違ったのは、小学生、中学生、高校生など、選挙権を持たない若者を多く惹きつけたことだ。

 子どもたちは街でスーパークレイジー君を見つけると、時には自転車で、時には猛ダッシュで追いかけた。街頭でビラ配りをする候補者を見つけると、みんなで囲んで話しかけた。そんな時、彼は決して子どもたちを無視しなかった。ときには大人よりも丁寧に対応していた。子どもたちにわかりやすい言葉で政治を語った。

 子どもたちにしつこく追いかけ回されるような候補者は、なかなかいない。子どもたちはみんな自由に話しかける。候補者も演説の途中で子どもたちの声に答えたりする。

 それを見ていた多くの大人たちはこう思ったことだろう。

「選挙権がない子どもたちに政治を語っても仕方がない」

 たしかに直接の得票には結びつかない。しかし、スーパークレイジー君と言葉を交わした子どもたちは違った。まるで新しい友だちができたかのように喜んで家に帰ると、大人たちに一生懸命スーパークレイジー君のことを話した。そのエネルギーは、家庭にいる大人たちを投票所へと向かわせるのに十分な熱量だった。

「絶対、議員になって卒業式や運動会に来てほしいんだ!」
「スーパークレイジー君、もう少しで当選できそうなんだって!」

 私は子どもに説得された大人たちが、半信半疑でスーパークレイジー君のもとにやってくる姿を目撃した。そして、直接彼と言葉を交わした人たちの中には、孫と連れ立って期日前投票所へと向かう人もいた。スーパークレイジー君から笑顔でビラを受け取り、4人で投票所へ向かう家族もいた。もちろん、「絶対入れねえ」と言ってくる有権者もいた。

 それでも子どもは次から次へと周りの大人をスーパークレイジー君のもとへ連れてくる。子どもに連れられた大人もニコニコする。ここまで若い世代が自発的に走り回っている選挙は今まで見たことがなかった。

深夜までの激戦。当選を待つ候補者。(撮影/畠山理仁)
深夜までの激戦。当選を待つ候補者。(撮影/畠山理仁)
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新刊紹介

畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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