よみタイ

政治家が選挙で選ばれることの大切さを教えてくれる首相や防衛省の記者会見

20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。 前回の第31回では、1/31(日)に投開票が行われた注目の埼玉県戸田市議会議員選挙の最速レポートをお届けしました。東京都知事選挙でも注目を集め、今回初当選を果たした「スーパークレイジー君」の選挙を追いました。 今回はコロナ禍でさらに国民一人ひとりが大事だと痛感しているはずの首相や各省庁など政府の会見。その裏側にある「不公平」な現実をお伝えします。

原稿を読むだけの会見。その言葉に伝える力は備わっているだろうか。(撮影/小川裕夫)
原稿を読むだけの会見。その言葉に伝える力は備わっているだろうか。(撮影/小川裕夫)

政治家は本来、有権者と行政をつなぐパイプ役

 政治家が「選挙」で選ばれる理由は簡単だ。政治の方向付けに「民意」を反映するためである。政治がどこへ向かうかは有権者の一票によって変わる。政治を良くするのも悪くするのも、有権者の一票にかかっている。

 だから私は何度も、選挙に行くことは大切だと言ってきた。

 選挙で選ばれた政治家は「有権者の代表」として仕事をする。自分に一票を入れてくれた人のことはもちろん、自分に票を入れてくれなかった人の意向にも配慮しながら仕事を進めていく。それは国民の税金を報酬として受け取る「全体の奉仕者」として当然だ。

 いま、行政に携わる公務員の数は政治家よりも圧倒的に多い。しかし、そのトップには政治家が就く。それは公務員の仕事を「民意」によって方向付けするためだ。公務員が政治家の意向を無視できないのは、政治家が有権者の付託を受けているからにほかならない。

 私たちは行政が正常に機能しているかどうかを、政治家を通じてチェックする。つまり、政治家は有権者と行政をつなぐパイプ役だと言っていい。

政治家が自分の言葉で語らないなら、選挙で選ぶ意味がなくなる

 この前提を共有した上で問題提起をしたい。今、政治家は本当に有権者とのパイプ役になっているだろうか。有権者の支持を受けた者として、有権者の言葉を代弁しているだろうか。一部の人の利益のためだけに動いていないだろうか。官僚が作った作文を、ただ読むだけの存在になっていないだろうか。

 そんなことを感じたのは、政府の公的な記者会見があまりにもお粗末だからだ。

 みなさんも、菅義偉首相が記者会見で原稿を棒読みしているシーンを目にしたことがあると思う。「菅首相が自分の言葉で語っている」と感じる人はどれくらいいるだろうか。

 首相の発言は重いから、間違いが起きないように原稿を読むことは否定しない。しかし、たびたび「読み間違い」が発生している。そこで浮上するのが、「官僚の作文を読まされているのではないか」という疑問だ。

 あまり知られていないことかもしれないが、首相の記者会見で出る質問の多くは事前に想定問答が作られている。記者会見が開かれる前に、官邸報道室と内閣記者会幹事社の間では代表質問のすり合わせがされている。これは国会でも確認されている事実だ。

 それ以外の記者から出る質問も、官邸報道室の職員が事前に「どんなことに興味があるか」と問い合わせをしている。そして、ある程度の想定問答が作成されている。だから記者からの質問が出た時、首相は演台の上に置かれたファイルに目を落とす。

 いま、菅首相の記者会見は「1人1問」という謎の制限が設けられている。そのため、首相の回答が不十分でも再質問ができない。質問者を指名するのも内閣広報官という官僚だ。だから、当てたくない記者には当てないことができる。つまり、予想される記者の質問に対して用意された答えを「読みっぱなし」で終わってしまうことが少なくない。

 政治家が失敗を恐れるあまり、自分の言葉で語らない。官僚の作文を読むことに終始する。これでは政治家を選挙で選ぶ意味がなくなってしまうのではないだろうか。

首相の記者会見では事前に想定問答が作られている。会見前に官邸報道室と内閣記者会幹事社の間で代表質問のすり合わせがされているからだ。(撮影/小川裕夫)
首相の記者会見では事前に想定問答が作られている。会見前に官邸報道室と内閣記者会幹事社の間で代表質問のすり合わせがされているからだ。(撮影/小川裕夫)
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新刊紹介

畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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