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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」
20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。


前回の第28回では、茨城県は古河市の市長選挙を現地取材!「永岡桂子VS中村喜四郎」の代理戦争?とも言われた、現職VS前市長の熱すぎる一騎打ちの模様を渾身レポート。

年内最後の今回。2020年、新型コロナ禍の選挙がもたらした様々な影響を振り返ります! 「エア・ハイタッチ」「インターネットでの動画配信」「2人の田中けんが立候補」「現職落選」「大阪市廃止・特別区設置の住民投票」「保守分裂選挙」など今年の選挙を彩るキーワード、あなたはどれだけ覚えていますか? 来年の衆議院議員選挙に向け、ぜひ今年のうちに総チェックしておいてください。

新型コロナ禍で「激変」した2020年の選挙まとめ。「保守分裂」「現職落選」の連鎖は2021年も続くのか?

知事選告示前に県内で感染者が出たこともあり、コロナ対応に専念することを宣言。一度も街頭に立たずに4選を決めた蒲島郁夫熊本県知事。(撮影/畠山理仁)
知事選告示前に県内で感染者が出たこともあり、コロナ対応に専念することを宣言。一度も街頭に立たずに4選を決めた蒲島郁夫熊本県知事。(撮影/畠山理仁)

手探りで始まった「コロナ禍」での選挙戦

 新型コロナウイルス感染症が選挙にも影響を与えた一年だった。その証拠に、今年行われた選挙のうち、私の印象に残る選挙はすべて「コロナ禍」のもとで行われたものだ。

 3月の熊本県知事選挙は、現職の蒲島郁夫知事が一度も街頭に立たずに4選を決めた。当初は街頭での活動も予定されており、街宣車の準備は済んでいた。しかし、知事選の告示前に県内で感染者が出たこともあり、蒲島は知事としてコロナ対応に専念することを宣言。街宣車は車工場敷地内の駐車場から一度も外に出なかった。
 この知事選で唯一の対立候補となったのは、前熊本市長の幸山政史。幸山は街頭での活動を展開したが、室内での大規模集会は取りやめている。
 有権者に演説を聞いてもらいたいのに、「3密」を避けるために大規模な告知もできない。そのため演説をしても「ほぼ無観客」。距離を取って集まった人たちとのコミュニケーション手段は、「エア・ハイタッチ」「肘タッチ」「グータッチ」という、なかなかもどかしい手法が開発された。しかし、選挙戦最終日になると盛り上がり、思わず有権者とハグするシーンも見られた。

 当初はだれもが全くの手探りで選挙を進めていた。しかし、感染が拡大するにつれ、「やるなら屋外」「大規模な事前告知をしない」「聴衆は少人数」「インターネットでの動画配信」へと比重が移されていく。

 4月の静岡4区補選は、さらに条件が厳しい「緊急事態宣言」下で行われた。新人4人による戦いは、候補者による戦術の違いが鮮明になった。
 この選挙には2人の「田中けん」が立候補した。そのうちの一人、NHKから国民を守る党の「田中けん」は一度も静岡入りしなかった。同姓同名の候補が出る選挙も珍しいが、候補者本人が一度も現地に入らないのは前代未聞だといえる。
 また、山口賢三は「パソコンをインターネットに繋ぐのは危険」という理由で、インターネットを使った選挙は全くしなかった。山口に話を聞くと「電子メールも使わない。インターネットは怖いから」と真顔で言った。そのため山口の活動は、すべて街頭でのリアルな演説だった。
 山口がマスクをせずに演説する様子がテレビ報道で流れると、山口の子どもから電話がかかってきたという。

「お父さん、ネット上では『マスクせずに演説するなんて、山口賢三は人殺しか』みたいな批判をされとるぞ」

 山口は「自分はネットをやらんからビックリした」と言っていた。私は山口の街頭演説を生で見ている。しかし、山口のまわりに聴衆はいなかった。

2人の「田中けん」が立候補し話題になった静岡4区補選。NHKから国民を守る党の「田中けん」は一度も静岡入りしなかった。(撮影/畠山理仁)
2人の「田中けん」が立候補し話題になった静岡4区補選。NHKから国民を守る党の「田中けん」は一度も静岡入りしなかった。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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