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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」

「政策と人材のオリンピック・パラリンピック」東京都知事選挙で印象に残った演説

西本誠の選挙カーは黒塗りのベンツ。自らハンドルを握り、時には別の候補者の後を追いかけた。(撮影/畠山理仁)
西本誠の選挙カーは黒塗りのベンツ。自らハンドルを握り、時には別の候補者の後を追いかけた。(撮影/畠山理仁)

「7回の逮捕歴」「全身に入れ墨」「最初は売名のつもりで立候補」を正直に語った西本誠

 一人で22名の候補者を取材した上で書く。

 22名の候補者を「ネタ」的に扱う風潮には異議を唱えたい。
 この連載では何度も繰り返してきたが、選挙に出るのはとても大変だ。すべての候補者は金銭的にも精神的にも高いハードルを飛び超えてきたアスリートだと思ってほしい。

 今回の都知事選では西本誠(33歳)という新星が現れた。こうした新しい出会いが私をまた選挙取材へと向かわせる。
 西本は「スーパークレイジー君」という名前で歌手として活動をしている。最初はこの名前を「通称」使用して選挙を戦おうとしたのだが、「世間で認知されていない」という悲しい理由で選挙管理委員会に却下された。
 しかし、西本は通称認定を受けられる前提でポスターを印刷していた。困った西本は苦肉の策で「スーパークレイジー君」という政治団体を立ち上げて立候補した。

 西本の選挙カーは黒塗りのベンツだった。髪は金髪。衣装はまるで暴走族のメンバーが着るような文字入りの白い特攻服だった。
 選挙の候補者でなければこちらから話しかけることはなかっただろう。目も合わせにくい。しかし、それでは仕事にならないので声をかけると、西本は見た目からは想像できないような柔らかい語り口で話をしてくれた。

「元暴走族で7回の逮捕歴(すべて「共同危険行為」)があります」
「中学校から少年院に5年入っていました」
「全身に入れ墨が入っています」
「銀座の高級クラブで雇われ社長をやっていました」
「百合子か、俺か」

 素直で素朴な語り口と語られる内容の間には大きなギャップがあった。
 西本は選挙演説で自身の複雑な生い立ちや最初は売名のつもりで立候補したことを正直に語った。一方で、仲間とともに自分の曲「てんてんむし」を歌って踊る活動もした。「女性の家を転々とする」という歌詞の歌だ。
 派手なのか。真面目なのか。どちらが本当の西本なのかと戸惑うが、どちらも西本だ。

「僕はこれまで1回しか選挙にいったことがなかった。それもお店のお客さんに『今度娘が選挙に出るから』と頼まれて」
 その選挙で、西本はお店で働いていた女の子たちに声をかけ、約200人を投票所に連れて行ったという。彼女たちはこれまで誰一人として選挙に行った経験はなかった。西本が会ったこともないのに応援したその候補者はわずか180票差で当選したという。
「これ、行けんじゃねーの?」
 西本はそう思ったという。その一方で、社会のおかしさも指摘する。

「投票率が低い。投票所がエベレストの上や富士山の上にあるなら投票率が低いのもわかるけど、実際には近い。それなのになぜ投票に行かないのか。僕は選挙に行ったことがない若者に選挙に行ってほしいと思ってます。400万〜600万人いると言われる『選挙に行かない人たち』の票を動かしたい。僕に入れなくてもいい」
 西本は「アメリカ大統領選挙を見るのが好きだ」と言った。理由は「見ていて楽しいから」。日本の選挙を「渋谷のハロウィンのように楽しいものにしたい」とも言っていた。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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