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「マスコミ=マスゴミ」「選挙や政治は難しい」と思う人にこそ絶対観てほしい映画『はりぼて』

不正を正すスクープの結果、富山市で起こった皮肉すぎる影響

 この連載では、『なぜ君は総理大臣になれないのか』(監督:大島新/製作・配給:ネツゲン)、『れいわ一揆』(監督:原一男/風狂映画舎)など、政治や選挙を扱った映画を取り上げてきた。どれも「普通の人」から距離が遠くなってしまった政治をぐっと身近に引き寄せる力がある。
 政治はよく見ると絶対に面白いのだ。
 とくに政治系ドキュメンタリー映画は観るたびに新しい発見がある。観終わっても完結しない。それは誰もが政治の当事者であり、政治が生活とともにあるからだ。
 笑って呆れて憤った後、いかに自分が政治を見てこなかったのかに気づいてほしい。

 9月26日、映画『はりぼて』の監督である五百旗頭幸男監督と砂沢智史監督、そして東京新聞の望月衣塑子記者が上映後にトークショーを行うというので映画館に足を運んだ。
 そこで両監督に話を聞くことができたので紹介したい。
 まずは砂沢監督に、チューリップテレビが連日のニュースで不正を報道していた時の市民の雰囲気について聞いた。

「報道が出始めの頃は応援してくれていた人が多かったんです。市役所の中で市民の人に会っても声をかけてもらったり、励ましのメールも来たりしました。内部からのリーク情報が寄せられることもありました。
 でも、不正のニュースが毎日のように続き、14人も議員辞職してしまった。そのことで市民の中には『議会に対する失望』が生まれてしまいました」

 大量辞職を受けて、2016年には市議補欠選挙も行なわれた。そして、報道による影響が思わぬ形で出てしまった。

「補欠選挙の投票率は26.94%でした。通常は市長選と市議選を同時にやって50%ぐらいなんですが、この結果には僕たちが一番がっかりしました。全国ニュースとしても取り上げられるほど注目されましたが、『投票所に足を運ぶのすら嫌だ』みたいな感じになってしまった。違う影響が出ちゃったんです」

 政治に緊張感をもたせるための報道が、逆に有権者の関心を大きく失わせてしまったという。なんという皮肉だろうか。
 地元の富山市では10月31日から映画が公開される。ぜひ、富山市民のみなさんには取材班の奮闘をみてほしい。日々のニュースの裏側がどうなっているかを知れば、有権者も襟を正さなければならないと気づくはずだ。

 五百旗頭監督にも話を聞いたが、やはり、補欠選挙の投票率にショックを受けていた。

「投票率が全然上がらなかった。そこに僕らも無力感を感じた部分はあります。無党派層はより失望して、より選挙に行かなくなった。支援者の中にも、失望して選挙にいかなかった人がいました」

 映画を観た後に両監督の話を聞くと、思わずこちらが泣きたくなる。ここまで無関心になれる原因はどこにあると五百旗頭監督は考えているのだろうか。

「市議が『市民の代表』ではなくて『地域の代表』になってしまっていることにあるんじゃないでしょうか。地域の御用聞きである議員を市民も認めますし、議員も地域になにか還元すれば、ああいう不正を働いても当選するわけです。市民としても、『悪いことするけれどもこの地域にはいいことをやってくれているからいいんじゃないか』と、そういう発想なんです。そこに歪みを感じています。
 だけど、僕らが諦めたら終わり。諦めずに報道するのが僕らの役割だと思うし、継続的に続けないと小さな変化も起こらないと思うんです」

 私はもう少し有権者にもがんばってほしい。

「『政治ってこんなもんだ』『政治家ってこんなもんだ』みたいな諦めがある。『そんなのみんなやっているよ』と思って許しちゃう。それが今の惨状を招いているということを映画では描いたつもりです。映画を観ているみなさんも、笑っていても腹が立ってくると思います。でも、無関心になったり、諦めていたりする私たちがこの国をどんどん悪くしてしまう。そこに市民が加担しているんだということを認識してほしいですね。劇場内では終わってほしくないと思っています」(五百旗頭監督)

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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