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「選挙の鬼」ではなく「選挙の牛」がいた! あなたは「ミルクおやじ」を知っていますか?

「ミルクおやじ」はシンガーソングライターだった!

「なんでミルクおやじなんですか?」

 笑い出してしまう前に真面目な顔で切り出すと、間髪入れずに答えが返ってきた。
「私の場合は選挙があるからミルクおやじになったわけじゃないんです。もともとミルクおやじの活動をしていたんです」
 もともと? そもそも「ミルクおやじの活動」って、どんなものなんですか?
「音楽活動です。2000年の秋頃から、シンガーソングライターとして活動し始めました」
 なんと、村川さんは「ミルク082(おやじ)」名義で3枚もCDを出していた。

「私はもともと酪農家でしたが、2000年に雪印の集団食中毒事件が起きたんです。当時40歳。8千万円ぐらい借金をして、酪農の設備投資をした直後でした。『さあ、これから』という時に牛乳の消費が落ちる事件が起きたのは致命的でした」
 それは大変でしたね……。
「毎日、牛に餌やりをしながら『本当に困ったなぁ』と悩んでいたら、なんとなく頭の中にメロディーが浮かんだんですよ」
 どんな曲ですか?
「『ミルクが売れないとちょっぴり困っちゃう。だって私たちホルスタインなんだもん』という歌い出しから始まる曲です」

 ププッwwwwwww!
 耐えきれずに笑ってしまった。怒られるかもしれないと思ったが、村川さんは気にせず優しい笑顔で話を続けてくれた。笑ってもよかったのか!

「困っている牛の気持ちになって歌ったのが初めて作った曲で『ミルクソング』。それを歌うおやじということで、『ミルクおやじ』です。牛の立場で歌うなら牛の格好の方が伝わるだろうと、コスプレをはじめました」

 音楽のジャンルは「乳(ニュー)ミュージック」。酪農は2008年まで続けたが、48歳の時、牛を手放して無職になった。その後はCDを売ったり施設に慰問に行ったりする音楽活動を続けていた。
 そんな村川さんが選挙に出たのは、もともと選挙のあり方に不満があったからだ。

「一石を投じたかったんです。田舎の選挙は縁故関係で決まってしまう。税金の使われ方にもそれが透けてみえる。しかも、投票率も低い。スーツを着て真面目なことを訴えていればそれでいいのか? と否定的な意見を持っていたんです」

 ミルクおやじの選挙ポスターには「常識をぶっ壊す」の文字がある。他候補の選挙との差別化がコンセプトだ。

一回見たら忘れられないインパクト!(撮影/畠山理仁)
一回見たら忘れられないインパクト!(撮影/畠山理仁)
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新刊紹介

畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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