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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」

大人のための「公職選挙法」講座、街宣車編。ウグイス嬢の日当1万5千円は妥当か?

あなたは街宣車が来なくても、選挙があることをしっかり認識できる自信があるだろうか。(撮影/畠山理仁)
あなたは街宣車が来なくても、選挙があることをしっかり認識できる自信があるだろうか。(撮影/畠山理仁)

街宣車の連呼行為がなくならない理由

 選挙に対してネガティブな感情を持つ人がいるのは知っている。取材をしていても、「街宣車がうるさい」という声はよく聞く。

 わかる。週末の静かな住宅街の中を、街宣車が候補者の名前を連呼して走ってきた時の気持ち。せっかく赤ちゃんを寝かしつけた瞬間に起こされた時の怒り。「あの候補者はうるさいから絶対に入れない!」と言いたくなるのもわかる。

 だが、ちょっと待ってほしい。あなたは街宣車が来なくても、選挙があることをしっかり認識できる自信があるだろうか。候補者のことをしっかり見て判断する自信があるだろうか。候補者は「知られていない」と思っているから、わざわざあなたのところにやってくるのである。

 もう一つ、有権者からよく聞く声に、「街宣車による『名前の連呼』はなぜなくならないのか」というものがある。
 残念ながら、今のままではなくならない。短期間で候補者の名前を知ってもらうためにも、街宣車は極めて有効な方法だからだ。

 もう一つは法律上の問題だ。日本は公職選挙法によって、選挙運動ができる期間が厳しく規制されている。最短の町村議会議員選挙および町村長選挙では5日間。一番長い参議院選挙および知事選挙でも17日間しかない。
 その上、スピーカーを通して音を出せるのは、朝8時から夜8時までと決まっている。だから候補者はその時間をフルに利用する。

 公職選挙法は素人にはわかりにくい法律だ。なにしろ、「選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない」などという、なぞなぞみたいな条文がある。ギャグじゃない。本当だ。

「あれ? じゃあ、なんで街宣車はあんなに大きな音を出しているの?」と疑問を持ったあなたは鋭い。この条文には「例外」が続いていて、「停止した車の上での演説」と「連呼行為」は認められることになっている。
 裏を返せば、走っている街宣車は「連呼」しかできない。だからみなさんが「うるさい」と思っても「連呼」はなくならない。

 さらにもう一つ、現場取材の経験から言えることがある。街宣車は「うるさい」と嫌われるのも事実だが、意外と人気もある。
 街で出会うと、わりと多くの人が手を振って応援してくれる。街宣車の声が近づくと一家総出で玄関から飛び出して「待ってたよー!」と喜んでくれることもある。
 それどころか、「他の候補はうちの近所まできたのに、どうしておたくは来ないんだ。おれを無視しているのか」という苦情が選挙事務所に寄せられることもある。

「来ないのか」という声があれば、候補者は「来てほしいんだ」と受け止める。つまり、行けば評価される可能性があるから行く。
 他の候補も街宣車を走らせている中、自分だけが有効な武器を捨てるわけにはいかない。だから候補者は街宣車を捨てられないのだ。

街宣車の声が近づくと、応援をする人も実は少なくない。(撮影/畠山理仁)
街宣車の声が近づくと、応援をする人も実は少なくない。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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