よみタイ

CITY BOYおじさん 湖畔でデュアルライフはじめました。

富士のふもとの昭和レトロ街で、ノスタルジックが止まらなくなった話

昭和レトロワールドを散策していたら懐かしい記憶があふれてきた

出版業界で働いている人たちは皆同じようなものだと思いますが、僕はとにかく本屋が大好きです。
子どもの頃から暇さえあれば本屋に行き、長い長い時間を店内で過ごしました。
僕が育った西武池袋線のひばりヶ丘駅周辺には、往時は大中小合わせて5〜6軒の新刊書店がありました。
ひとつのお店にあまり長くいると居心地が悪くなるので、いくつもの本屋を順繰りに回り、雑誌や漫画、書籍を漁るように立ち読み。
そしてなけなしの小遣いと相談しながら、家に連れて帰る本を決めました。

本屋好きが高じ、大学生の頃には地元の一軒でアルバイトをはじめました。
ひばりヶ丘駅南口に建つ「Books J」という中規模書店です。
その名を聞いて、あっ!と思った方はきっとジュンスカのファンだったのではないでしょうか。
ひばりヶ丘にある自由学園という学校の友達同士で組まれたバンド、ジュン・スカイ・ウォーカーズの面々は、地元愛にあふれる人たちで、人気絶頂だった1990年に『Let’s go ヒバリヒルズ』という、地元礼賛のご当地ソングをリリースします。
その曲の冒頭で「階段おりると 左に『Books J』」と歌われていたのが、僕のバイト先だったのです。

2013年の駅前パルコ20周年ポスターに登場したジュンスカ
2013年の駅前パルコ20周年ポスターに登場したジュンスカ

話がどんどんあさっての方向に向かいますが、やめませんよ。

Books Jでのバイトは大学卒業まで3年間続けましたが、その間には宮沢りえの写真集『Santa Fe』(朝日出版社 1991年11月刊)が発売されるという大ごともありました。
こちらもまた人気絶頂期の企画でしたし、新聞にヌード写真を使った全面広告が打たれるという、今では考えられないプロモーションがされたことも功を奏し空前のヒット。
そのインパクトたるや、出版業界だけではなく社会全体をざわつかせるものだったと記憶しています。
当時はもちろん、アマゾンのようなネット販売網など皆無の時代ですから、欲しい本があったら本屋で手に入れるしかありません。
Books Jでも、予約取り置き分以外にわずかな冊数を店頭に並べましたが、朝から行列した客があっという間に買っていき、夜シフトだった僕が出勤したときには、店頭在庫一冊のみになっていました。

その一冊は予約注文受け付けの見本とするため、非売品としてレジ前に飾っていたものですが、事件が起きます。
ちょうど僕が店の奥で返本作業をしていたときでした。
レジの方から怒鳴り声やバタバタと走る足音、何かがガシャンと落ちる音などが聞こえてきました。
慌ててレジに駆けつけると、10歳年上のバイト仲間が血相を変え「やられた! 宮沢りえ、パクられた! 追いかけるからレジよろしく!」と言い残し、店外へ全速力で走っていきました。
しかし5分後に帰ってきた彼は手ぶら。しかも額から血をダラダラと流していました。
すぐに110番し、翌日の新聞の地域版に載る本物の事件になりました。

ちなみにその勇敢なバイト兄さんの本職は、無名の声優でした。
普段は寡黙な人でしたが、非常時に出した怒鳴り声があまりにもアニメヒーローばりの美声だったため、30年経った今も僕の頭には、その響きが残っています。
Books Jはとっくの昔に閉店してしまったけど……。

そろそろ読んでいる方に「いったい何の情報だ?」と思われる頃なので、話をもとに戻しましょう。
昭和レトロな「月の江書店」で濃厚な時間を過ごしていると、僕の頭にとめどなく過去の記憶を蘇ってきました。
とにかく、不思議で素敵な空間だったわけです。
ああ、ノスタルジックが止まらない。

月の江書店で買ったプラモと雑誌
月の江書店で買ったプラモと雑誌
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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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