2022.1.5
富士のふもとの昭和レトロ街で、ノスタルジックが止まらなくなった話
昭和時代の建物や街並みが真空パックされた町
山中湖村の山の我が家から車で約30分。富士吉田市下吉田に、“月江寺”と呼ばれる地区があります。
その名の通り、お寺を中心に発展した由緒正しき門前町ですが、ここがなかなかのディープゾーンであるという噂を耳にしたので、行ってみることにしました。

かつて月江寺には富士参詣一番札所が置かれていたため、吉田口登拝の起点として多くの参詣者が訪れたそうです。
また、富士吉田は富士山の天然水を利用する織物業が古くから栄え、全国の商人も集まってきました。彼らが仕事を終えたあとの夜、羽根を伸ばしたり休めたりする歓楽街も月江寺界隈で発展したのだとか。
そして第二次世界大戦後、現在は自衛隊北富士演習場となっている広大な土地が米軍に接収されたため、月江寺界隈に繰り出してくる米兵相手の私娼街も出現したといいます。
しかし、それもこれも今は昔のお話。
富士登山が近代化し、米兵が引き上げ、日本の繊維業がシュリンクするとともに、月江寺界隈も少しずつ寂れていきました。
そんな歴史に埋もれたような街・月江寺には、昭和時代のノスタルジックな建物や街並みが、真空パックされたように残っているのです。

一時期はただの古臭い街として忘れられかけた月江寺は、今世紀に入って以降、リアルな昭和レトロの街として再び注目されるようになりました。
内村光良(うっちゃん)初監督作品として2006年に公開された『ピーナッツ』をはじめ、数々の映画やテレビドラマのロケ地として選ばれたり、レトロな街並みを散策する人たちがたくさん訪れたりする街になったのです。

そんな月江寺で、まっ先に訪ねたい場所がありました。
昭和24年から営業を続ける「月の江書店」です。
月江寺観光のハイライトとして知られる名所なので、事前に建物の外観などは写真で見ていましたが、実際に目の前に立つとハッとさせられました。

雑誌や漫画、それにプラモデルなどの雑貨を扱う地域密着の本屋さん。
昔はどんな街にも必ずあった個人経営の小さな本屋ですが、今の時代には超希少な存在です。
本屋好きな僕にとっては、思わず抱きしめて頬ずりしたくなるような、昭和の古き良き本屋さんが、ひっそり佇むように存在していたのです。
店内もまるで、時が止まったかのような趣に満ちていました。
プラモデルの棚は自動車やバイク、それに戦艦や戦闘機ものを中心に並べられていました。

この空間は、まるで昭和40年代。
幼き日、母親に連れられて入った近所の本屋さんは、確かにこんな雰囲気だったような気がします。

でも雑誌の棚に目を移した僕は、また別の意味でハッとしました。
僕がつい先日まで編集していた某社の付録付きブランドムック最新号が、その棚に陳列されていたからです。

時空がユラっと歪み、幼き自分と現代の自分が脳の中で一瞬の邂逅を果たしたような、妙な感じになりました。